目次

  1. 微細化が進む粉体研磨材と、見落とされがちな工程
  2. 乾燥で生まれる「強固な凝集体」のメカニズム
  3. 現場で起きていること――トレー乾燥と解砕の落とし穴
  4. 分級後に生まれる粗大粒子が引き起こすトラブル
  5. インドで見た二軸エクストルーダーという発想
  6. 「乾かしてから砕く」から「乾かしながらほぐす」へ
  7. まとめ――後工程の設計思想が品質を決める

微細化が進む粉体研磨材と、見落とされがちな工程

人工ダイヤモンドパウダーの製造工程は、一般に以下の流れで進みます。

STEP 1
合成
STEP 2
粉砕
STEP 3
洗浄
STEP 4
分級
STEP 5 ★
乾燥
STEP 6 ★
解砕
STEP 7
梱包

分級工程の重要性についてはこれまでたびたび触れてきましたが、今回はその後段にある「乾燥」と「解砕」に注目したいと思います。一見すると単純に見えるこの工程が、最終品質に大きく影響していることを、多くの現場ではまだ十分に意識されていないからです。
近年、研磨に使われる粉体はますます微細化しています。背景にあるのは、半導体・電子部品・光学材料などで求められる表面品位の高度化です。加工対象が高性能化するほど、砥粒にもより細かく、より均一な粒度が求められます。しかし粉体が微細になるほど、粒子同士は凝集しやすくなります。特に1ミクロン以下の領域では、その影響は無視できません。

乾燥で生まれる「強固な凝集体」のメカニズム

問題は、凝集が乾燥工程で非常に強固な形で発生しうる点にあります。湿った粉体中では、粒子間に残った液体が乾燥途中に液架橋を形成し、毛管力によって粒子同士を強く引き寄せます。粒子が微細であればあるほど、この毛管力の影響は相対的に大きくなります。

さらに乾燥が進むと、粒子同士は単に水分で寄せ集められているだけではなく、接触点でより強固な結び付きに変わることがあります。溶媒中にわずかに溶けていた成分が乾燥とともに粒子接点に析出し、橋のような結合をつくることもあります。こうして形成された凝集体は、単なるやわらかいダマではなく、かなり硬い塊となります。

凝集体が強固になる3つのメカニズム

1 液架橋
乾燥途中に粒子間の液体が液架橋を形成し、毛管力で粒子同士を引き寄せる
2 固体架橋
乾燥が進むにつれ、接触点の結合がより強固なものへと変化する
3 成分析出
溶媒中の溶解成分が粒子接点に析出し、橋のような固体結合をつくる

現場で起きていること――トレー乾燥と解砕の落とし穴

人工ダイヤモンドパウダーの製造現場では、分級後の湿った粉体をトレーに広げ、オーブンで乾燥する方法が一般的です。イメージとしては、パンを焼くときのオーブンに近いものがあります。分級後の濡れたダイヤモンドパウダーをアルミトレーに入れ、静置状態のまま加熱乾燥するわけです。

ところが乾燥が終わって取り出されるものは、さらさらの粉末ではなく、しばしばトレーの形に沿って固まった一つの塊です。その後、この固形化したものを解砕してパウダー状に戻していくわけですが、ここに大きな課題があります。

現場の実態

乾燥後のパウダーはさらさらの粉末にならず、トレーの形に沿った一つの塊として取り出されることが多い。解砕でパウダー状に戻す工程が必須となるが、凝集が非常に強固な場合はほぐしきれないケースも生じる。

分級後に生まれる粗大粒子が引き起こすトラブル

もし乾燥中に形成された凝集体が非常に強固であれば、解砕工程だけでは十分にほぐしきれないことがあります。すると、その残留塊は実質的には粗大粒子として製品中に入り込むことになります。しかもこの段階では、すでに分級は終わっています。本来なら除去されるべき粗大成分が、後工程で新たに生まれてしまうことになるのです。

さらに1ミクロン以下の領域では、篩による選別は現実的ではありません。結果として、そのまま梱包・出荷されてしまうリスクが高くなります。

ユーザー側で起こりうるトラブル例

スクラッチ発生
規格上は問題ないはずなのに、加工面に予期しないスクラッチが入る
加工ばらつき
ロット間・面内での研磨ばらつきが大きく、品質が安定しない
原因特定困難
粗大粒子は微量のため、受入検査では見落とされやすい

インドで見た二軸エクストルーダーという発想

4月初めにインドを訪問した際、私は二軸エクストルーダーという装置を見る機会がありました。もともとはポリマー加工に用いられてきた装置ですが、現在では食品・医薬品・バイオ分野にも応用が広がっています。特に興味深かったのは、材料を連続的に移動させながら、混合・せん断・分散・加熱を同時に行える点です。二本のスクリューが互いに作用しながら材料を前進させ、その過程で凝集体を崩し、均一化し、必要に応じて熱も与えます。

この「動かしながら状態を制御する」という考え方が、非常に面白いと感じました。

omega・大型機

「乾かしてから砕く」から「乾かしながらほぐす」へ

従来の人工ダイヤモンドの乾燥は静止状態で行われます。つまり、粒子同士が接近し、液架橋が形成され、さらに乾燥が進んで強い凝集体になる条件がそろいやすいのです。一方で、もし材料を連続的に動かしながら乾燥し、その途中でせん断や分散を与えられれば、粒子同士が強固に固まる前にほぐすことができる可能性があります。

従来の方法|乾かしてから砕く
  • ・静置状態でトレー乾燥
  • ・強固な凝集体が形成されやすい
  • ・解砕でほぐしきれないリスク
  • ・粗大粒子が製品に残存
新しい発想|乾かしながらほぐす
  • ・連続移動させながら乾燥
  • ・せん断・分散を同時に付与
  • ・固まる前にほぐすことが可能
  • ・粗大粒子の発生を抑制

もちろん、人工ダイヤモンドパウダーは樹脂や食品とは物性がまったく異なります。装置内部の摩耗・金属汚染・滞留・歩留まり・温度履歴など、慎重に検討すべき点は多くあります。しかし最近はラボスケールのエクストルーダーも存在するため、基礎検討としての実験は十分に可能です。乾燥後の粒度分布・粗大粒子残存率・再分散性・製品純度・異物混入の有無などを比較することで、この考え方の有効性はかなり明確に見えてくるはずです。

HMES OMicron10 MINI・小型機

まとめ――後工程の設計思想が品質を決める

微粉末の品質を語る際には分級工程が特に重要だと考えてきましたが、実際には、その後ろにある乾燥と解砕の設計によって、せっかく整えた粒度分布が崩されてしまうおそれがあります。分級で粒度をそろえても、乾燥と解砕で粗大粒子を新たに発生させてしまえば意味が薄れてしまうのです。

異なる分野で使われている技術が、別の製造現場でブレークスルーをもたらすことは少なくありません。自分のいる業界の中だけで解決策を探していると、工程改善の可能性を見落としてしまうことがあります。粉体研磨材の品質をさらに高めるためには、分級だけではなく、その後ろにある乾燥と解砕にも、より技術的な視点を向ける必要があるのではないでしょうか。研磨材の未来を変えるヒントは、案外、異業種の装置や技術の中にあるのかもしれません。

記事No,443