Vol.14|前回

サメ肌・膠・ガーネットからレジンへ。研磨材の歴史と、古い技術が今も選ばれ続ける理由を読み解く。

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Vol.15|今回

膠系研磨材が生き残る2つの理由――流通環境のシェルフライフと、木材への追従性から読み解く。

はじめに

中米の木工職人が研磨している様子
中米の木工職人が研磨している様子

中米の木工市場を歩いていると、ときどき不思議な場面に出会います。最新の高性能研磨材が並ぶ売り場の中で、昔ながらの膠(ニカワ)系研磨布が、今なお一定の存在感を持っているのです。
しかも、それは単なる低価格品として扱われているわけではありません。ある塗料メーカーの技術担当者は「この柔らかさは、レジンでは完全には再現できない」と語り、現地の木工職人たちは「木に当てた瞬間の感触が違う」「削りすぎにくい」と説明します。そこには、単純なスペック比較では説明できない価値が存在していました。

現場の声

「この柔らかさは、レジンでは完全には再現できない。」――現地塗料メーカー技術担当者

シェルフライフという現実

膠系製品が生き残る理由の一つが、「実市場におけるシェルフライフ」です。理想的な工場環境では、高性能レジン製品は非常に優れた性能を発揮します。しかし、実際のグローバル流通環境はそれほど単純ではありません。

中米向け製品が経由する流通環境

01 高温多湿のコンテナ輸送
02 港湾での長期保管
03 空調のない倉庫での保管
04 不安定な在庫回転


その結果、本来の設計性能がユーザーへ届くまでに変化してしまうケースも存在します。一方、膠系製品は適切な保管条件下では、非常に長期間その使用性を維持できることがあります。

奈良の老舗メーカーの事例

奈良の老舗研磨布紙メーカーでは、創業当時に製造された膠製品が現在も社内に保管されています。これは「永久に劣化しない」という意味ではありませんが、一部の市場環境においては膠の特性が現実的なメリットとして機能していることを示しています。

柔らかさと追従性

複雑な曲面加工にも手作業の様子
中米の木工現場では、複雑な曲面加工においても、手作業用の布研磨材が現在も使われ続けている。

もう一つの理由が「追従性」です。レジンは高耐久ですが比較的硬い材料です。一方、膠系ボンドはより柔らかく、有機的な特性を持っています。

レジン系

高耐久・高性能。ただし比較的硬く、素材の微細な変化への追従は限定的

膠(ニカワ)系

吸湿性により環境に応じてわずかに水分を吸放出。木材の微細な変化や手作業の圧力変化に柔軟に追従

手作業との相性

木材は温度や湿度によって常に変化しています。完全に硬い材料よりも、適度な「逃げ」を持つ材料が求められる場面があります。特に手作業主体の木工市場では、この感覚的なコントロール性が重視されます。

スペックを超えた価値

工業的合理性だけを考えれば、レジン化は当然の流れでした。実際、多くの用途ではレジン製品が圧倒的な性能を発揮しています。
しかし市場は、必ずしも「最も高性能な技術」だけを選択するわけではありません。実際の現場では、物流環境・保管条件・素材の特性・作業者の感覚といった複数の要素が重なり合っています。その結果、一見古く見える技術が、現在でも合理的な選択肢として残ることがあります。
研磨材の世界の面白さは、「単純なスペック競争では説明できない価値」が今なお存在している点にあるのかもしれません。

記事No,466