目次

  1. レーザー時代に、なぜスラリー方式か
  2. なぜ回収は難しいのか
  3. 回収方式の技術的検討 ― 実現性と課題
  4. 角が丸くなったダイヤの、二つの価値
  5. 回収・再生サービスという市場
  6. まとめ
工場で火花を使った金属加工機でのワイヤ切断機

ワイヤーソー用のダイヤモンドスラリーは、ラップ用とは桁の違う濃度で使われています。1kgあたり2000キャラットを超える高濃度も珍しくなく、むしろ安定した切れ味を維持するうえでは2000キャラット以上のほうが使いやすいとも言われます。2000キャラットといえば400グラム。スラリーの相当部分が、実はダイヤモンドそのものだという計算になります。

これだけの量のダイヤが、切断という役目を終えたあともスラリー中に残っています。これを回収したいとユーザーが考えるのは、コストの面でも資源の面でも、きわめて自然な発想だと言えるでしょう。

レーザー時代に、なぜスラリー方式か

近年、SiCの切断ではディスコの「KABRA(カブラ)」に代表されるレーザー剥離技術が注目を集めています。インゴット内部にレーザーで改質層をつくり、そこから薄く剥がす方式で、ワイヤーソーで生じる切り代(カーフロス)の損失を大きく減らせる点が評価されています。これは切断歩留まりという、ワイヤーソー+スラリー方式にとって痛いところを突く技術です。

だからこそ、スラリー方式が今後も選ばれ続けるには、レーザーに対する明確なメリットを意識しなければなりません。私はその一つが「ダイヤモンドを回収し再利用できる」という点だと考えています。高価な砥粒を使い捨てにせず資源として循環できれば、ランニングコストを下げ、レーザーとのコスト差を縮める材料になります。回収は単なる省資源活動ではなく、スラリー方式そのものの競争力を支える価値提案になりうるのです。

なぜ回収は難しいのか

ところが、回収に成功している例は多くありません。使用済みスラリーには、切断で生じたシリコンやワークの切り屑、ワイヤー由来の鉄やニッケルといった金属、潤滑成分、そして摩耗したダイヤが渾然一体となって含まれています。ここからダイヤだけを高純度・高歩留まりで分離するのは容易ではありません。そして、回収コストが新品購入と見合うかという経済性の壁が、常に立ちはだかります。

回収方式の技術的検討 ― 実現性と課題

現時点で技術的に検討が進んでいる方式を、私なりに整理しておきます。

1 比重分離
ダイヤ(比重約3.5)とシリコン切り屑(約2.3)の重さの差を利用する古典的な手法。設備が比較的簡素という実現性の高さがある一方、粒径が細かくなるほど沈降速度の差が縮まり、微粉域での分離精度が落ちるのが課題です。
2 凝集分離
無機塩などを加えてダイヤを選択的に凝集させ分離する方法で、一部は特許化もされています。薬剤条件の作り込み次第で微粉でも効きますが、薬剤コストと、凝集後の洗浄・脱薬という後工程が残ります。
3 磁選
ワイヤー由来の鉄・ニッケルなど磁性金属を磁力で除く方法で、金属不純物の除去には有効性が高いです。ただしこれは「ダイヤを取る」というより「邪魔者を抜く」前処理であり、単独では完結しません。
4 遠心・湿式サイクロン
遠心力で比重と粒径の差を一気に効かせる方式で、連続処理に向き量産性の点で有望です。条件設定がシビアで、装置の摩耗管理が実用化の鍵になります。


最新の流れとしても、単一の万能な分離法を探すのではなく、磁選で金属を抜き、遠心や比重で粗選別し、最後に分級で粒度を揃える――複数工程を連ねるプロセス設計に向かっていると、私は見ています。

角が丸くなったダイヤの、二つの価値

使用済みのダイヤは、一様に丸くなるわけではありません。割れて細かくなるもの、切り屑に取り込まれて回収しきれないものもあります。それでも、ある割合は角が摩耗しつつ形を保って残っており、ここに価値が残ると私は考えています。

回収をためらわせる最大の理由は「もう切れないダイヤに価値はない」という思い込みでしょう。確かに角の摩耗したダイヤは切れ刃としては鈍っています。しかし私は、ここに二つの価値があると見ています。

1 丸みを帯びた形状そのものの用途 鋭い切れ刃を必要としない仕上げ研磨やラッピング、樹脂ボンドの充填材など、むしろ角の立たないダイヤが向く場面があります。
2 再破砕による切れ刃の復活 もう一度破砕すれば新しい劈開面が生まれ、そこに鋭い角が再生します。これは、ミクロンダイヤ微粉が破砕によって作られているのと同じ理屈です。 元が高品位の単結晶・多結晶ダイヤであれば、再破砕材もそれなりの品質を保ちえます。内部のマイクロクラックが強度を落とす懸念はあるため新品同等とは扱えませんが、適切な分級と品質選別を組み合わせれば、再生砥粒として成立する余地は十分にあります。

回収・再生サービスという市場

私が見ているのは、個々のユーザーが自前で回収設備を持つ世界ではありません。使用済み高濃度スラリーを預かり、ダイヤを分離・洗浄・再破砕・分級し、用途に応じて再供給する――そうした回収・再生を専門に担うサービスビジネスが、今後必要になってくるという見立てです。

レーザー方式の台頭という逆風があるからこそ、スラリー方式の価値を回収・再生で底上げする意味は大きいと言えます。捨てられていたスラリーを資源として循環させる仕組みは、研磨材業界が次に取り組むべきテーマの一つだと、私は考えています。

まとめ

ワイヤーソー用ダイヤモンドスラリーには、高濃度ゆえに大きな資源価値が眠っています。比重分離・凝集分離・磁選・遠心分離といった技術を組み合わせたプロセス設計、そして摩耗したダイヤの再破砕による再生という発想を通じて、レーザー切断技術に対するスラリー方式の競争力を高める道が見えてきます。回収・再生を専門に担うサービスビジネスの登場は、研磨材業界にとって次なる大きなテーマになるはずです。


記事No,484