ワイヤーソー用のダイヤモンドスラリーは、ラップ用とは桁の違う濃度で使われています。1kgあたり2000キャラットを超える高濃度も珍しくなく、むしろ安定した切れ味を維持するうえでは2000キャラット以上のほうが使いやすいとも言われます。2000キャラットといえば400グラム。スラリーの相当部分が、実はダイヤモンドそのものだという計算になります。
これだけの量のダイヤが、切断という役目を終えたあともスラリー中に残っています。これを回収したいとユーザーが考えるのは、コストの面でも資源の面でも、きわめて自然な発想だと言えるでしょう。
レーザー時代に、なぜスラリー方式か
近年、SiCの切断ではディスコの「KABRA(カブラ)」に代表されるレーザー剥離技術が注目を集めています。インゴット内部にレーザーで改質層をつくり、そこから薄く剥がす方式で、ワイヤーソーで生じる切り代(カーフロス)の損失を大きく減らせる点が評価されています。これは切断歩留まりという、ワイヤーソー+スラリー方式にとって痛いところを突く技術です。
だからこそ、スラリー方式が今後も選ばれ続けるには、レーザーに対する明確なメリットを意識しなければなりません。私はその一つが「ダイヤモンドを回収し再利用できる」という点だと考えています。高価な砥粒を使い捨てにせず資源として循環できれば、ランニングコストを下げ、レーザーとのコスト差を縮める材料になります。回収は単なる省資源活動ではなく、スラリー方式そのものの競争力を支える価値提案になりうるのです。
なぜ回収は難しいのか
ところが、回収に成功している例は多くありません。使用済みスラリーには、切断で生じたシリコンやワークの切り屑、ワイヤー由来の鉄やニッケルといった金属、潤滑成分、そして摩耗したダイヤが渾然一体となって含まれています。ここからダイヤだけを高純度・高歩留まりで分離するのは容易ではありません。そして、回収コストが新品購入と見合うかという経済性の壁が、常に立ちはだかります。
回収方式の技術的検討 ― 実現性と課題
現時点で技術的に検討が進んでいる方式を、私なりに整理しておきます。
最新の流れとしても、単一の万能な分離法を探すのではなく、磁選で金属を抜き、遠心や比重で粗選別し、最後に分級で粒度を揃える――複数工程を連ねるプロセス設計に向かっていると、私は見ています。
角が丸くなったダイヤの、二つの価値
使用済みのダイヤは、一様に丸くなるわけではありません。割れて細かくなるもの、切り屑に取り込まれて回収しきれないものもあります。それでも、ある割合は角が摩耗しつつ形を保って残っており、ここに価値が残ると私は考えています。
回収をためらわせる最大の理由は「もう切れないダイヤに価値はない」という思い込みでしょう。確かに角の摩耗したダイヤは切れ刃としては鈍っています。しかし私は、ここに二つの価値があると見ています。
回収・再生サービスという市場
私が見ているのは、個々のユーザーが自前で回収設備を持つ世界ではありません。使用済み高濃度スラリーを預かり、ダイヤを分離・洗浄・再破砕・分級し、用途に応じて再供給する――そうした回収・再生を専門に担うサービスビジネスが、今後必要になってくるという見立てです。
レーザー方式の台頭という逆風があるからこそ、スラリー方式の価値を回収・再生で底上げする意味は大きいと言えます。捨てられていたスラリーを資源として循環させる仕組みは、研磨材業界が次に取り組むべきテーマの一つだと、私は考えています。
まとめ
ワイヤーソー用ダイヤモンドスラリーには、高濃度ゆえに大きな資源価値が眠っています。比重分離・凝集分離・磁選・遠心分離といった技術を組み合わせたプロセス設計、そして摩耗したダイヤの再破砕による再生という発想を通じて、レーザー切断技術に対するスラリー方式の競争力を高める道が見えてきます。回収・再生を専門に担うサービスビジネスの登場は、研磨材業界にとって次なる大きなテーマになるはずです。
記事No,484
