前回、従来の偏光顕微鏡の仕組みと問題点について解説しました。従来の光学観察手法では入射する光が低コリメート(さまざまな方向の光が発せられた平行度の低い光)な光学特性により位相差情報の分解能が低下するため、原子変位による微小な結晶転位の観察が困難となっていることが課題であることを解説しました。本稿では、この結晶転位の可視化を可能にしたMipoxの偏光顕微鏡「XS-1」の光学技法や特徴について解説していきます。

目次

  1. 1.高精度な平行光束の生成が可能
  2. 2.平行光束の特長と利点
  3. 3.対物レンズの光学的要素に影響されない複屈折情報の抽出技法
  4. 4.偏光板の選定
  5. 5.『XS-1』が持つ可能性

前編はこちら:MipoxのSiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1」の独自性①「偏光顕微鏡の現状」編

1.高精度な平行光束の生成が可能

ベースとしている観察手法は前回紹介したオルソスコープ法と同一ですが、本装置の照明光については様々波長が混在した白色光ではなく近紫外光(単一波長405nm)のハイパワーLED光源電源装置と、その発光を効率よく伝送するために紫外透過率が高い石英ファイバーを用いた照明光を使用しています。

このLED光源から発された光は石英ファイバーライトガイド(以下ライトガイド)のコア内部で全反射を繰り返しながら進み、出射光部では照度分布がほぼ均一になっています。また出射光部の後方にバンドパスフィルター(特定の波長のみを透過させるフィルター)を設けてあり、光がバンドパスフィルターを透過した後、ごく小さな穴のピンホール板(アパーチャ)を設けることにより点光源を生成し、レンズ本体の入射光部に挿入されます。 挿入されたライトガイドの点光源 は、レンズ内にあるプリズムミラーで90°に反射され、テレセントリック・コンデンサーレンズ(光束を平行光にするレンズ)により高精度な平行光束を生成しています。<図1>

このように平行光束にすることで、対物レンズ側に入射される光の回り込み(ゴースト)を低減し、後の偏光特性による位相差情報に対する分解能を飛躍的に向上させることに成功しました。

<図1>
(画像=図1)

2.平行光束の特長と利点

近紫外光の平行光束(コリメート光)は半導体レーザーのように単色性で半値幅が非常に狭く、光子の位相がそろったコヒーレント光(干渉しやすい光)となっています。 従来のケーラー照明の広帯域(約400~700nm)の低コリメート光と比較した場合、近紫外光のためテレセントリックレンズの光軸上色収差による光路誤差が極めて少なく、精度の高い平行光束にできることから直線性に優れています。

さらに透過照明光面から対物レンズ間距離における光束平行度の誤差は0.3mrad(ミリラジアン)以下と低く狭い波長帯域かつ指向性を持つことから、長距離を伝播しても広がらず滲みやボケが無い空間的コヒーレンスの高い光となっています。

また電場ベクトルの振動方向である偏光についても歪の少ない良好な直線偏光を得ることができ、かつ短波長であるためわずかな偏光の位相変化に伴う物理的な光弾性効果(結晶性の歪場や転位性欠陥による複屈折現象)の抽出においてもその効果を発揮します。

3.対物レンズの光学的要素に影響されない複屈折情報の抽出技法

本装置の偏光素子であるポラライザ(偏光子)はコリメートされた照明光の直後に位置し、またアナライザ(検光子)は対物レンズ側の手前に位置します。試料はポラライザとアナライザの間に位置するため従来の偏光顕微鏡のようにレンズの光学歪の影響は受けなくなり、観察対象である異方性内部に存在する微小な複屈折情報を変化・減衰させることなく抽出することが可能になりました。<図2> 

図2
(画像=図2)

4.偏光板の選定

本装置は微小な原子変位による転位の有無やプロファイルを重点に観察することを目的としているため光源は近紫外光であり、偏光素子についても紫外透過特性の高い直線偏光板を使用しています。

また一般に、偏光顕微鏡には1/4λ波長板(位相板)を偏光子と検光子の間に挿入して円偏光を生成していますが、振幅の振動方向が回転する円偏光の場合、光波振幅の回転が光速と等しいため、得られる情報はアイソジャイア(十字線状の影)がない積算された像となります。

5.『XS-1』が持つ可能性

以上のことから、従来の偏光顕微鏡の弱点を克服し、さらに最新の画像処理も活用することで、非破壊・低コスト・高精度、そしてリアルタイムな高速処理で結晶内部にある原子変位レベルの転位像の可視化を実現しました。

この革新的なXS-1により、製造プロセスの改善に加え、SiCやGaNをはじめとする次世代パワー半導体材料や、サファイア、AlN、ダイヤモンド等の結晶転位観察の精度・スループットの飛躍的な向上が大きく期待できます。