電気機器や電子部品の高性能化が進むなかで、見落とされがちだけど欠かせないのが「絶縁塗装」。安全性、信頼性、そして生産性――すべてを支えるこの技術に、いま新たな進化が起きています。
この記事では、粉体塗装と誘導加熱(IH)を組み合わせた絶縁処理が、なぜ注目されているのかをわかりやすくご紹介します。

絶縁塗装に求められること

絶縁塗装とは、導電性のある金属部品の表面に、電気を通さない塗膜を形成する処理のこと。電気の漏れやショートを防ぎ、製品の安全性を支える非常に重要な役割を果たしています。 たとえば、EVのバスバーやモーター部品、電源モジュールの筐体など、高電圧を扱う現場では、高い耐電圧性能と薄膜での仕上がりが求められます。

 

しかし従来のモールド樹脂や絶縁テープなどでは、

  • 厚みや重量がかさむ
  • 複雑な形状への対応が難しい
  • 長期信頼性や放熱性に課題がある

といった悩みもありました。こうした課題に応えるべく、注目されているのが粉体塗装と誘導加熱の組み合わせです。

粉体塗装 × IH加熱のメリット

粉体塗装は、静電気の力で金属表面に粉状の塗料を付着させ、熱で焼き付けて塗膜を形成する環境対応型の塗装法です。有機溶剤を使用しないため、VOC(揮発性有機化合物)ゼロで、材料ロスも少なく、サステナブルな塗装手段として広まりつつあります。ここに、IH(誘導加熱)技術を組み合わせることで、従来では難しかった高度な焼き付け制御が可能になります。

 

IHは、金属の内部に渦電流を発生させて“内側から”加熱する方式。 これにより:

  • 素早く均一な加熱が可能
  • 熱効率が高く、省エネ
  • 焼きムラやピンホールの抑制につながる
  • 乾燥設備のコンパクト化が実現

また、加熱特性をシミュレーションで可視化することで、複雑形状の部品にも的確に対応できます。

薄膜でも高性能な絶縁塗装へ

この組み合わせにより、厚膜処理に頼らずとも、十分な絶縁性能と信頼性を確保できるようになっています。たとえば、焼き付けを段階的に制御し、内部の気泡やガスを処理してから表面を仕上げることで、滑らかでピンホールのない絶縁塗膜が形成可能です。

こうした絶縁塗装は、EVのバスバーやバッテリーパック部品だけでなく、

  • モーターのコイルエンド
  • インバーター筐体
  • 家庭用ヒートシンクや電装カバー

など、幅広い分野に展開が進んでいます。

 

粉体塗装とIH加熱による絶縁塗装は、高性能・省エネ・環境負荷低減という三拍子を兼ね備えた、新しい塗装のかたちです。製品の安全性を“見えないところ”で支える絶縁技術にも、確かな革新が起きています。これからのモノづくりにおいて、薄くても信頼できる絶縁塗装は、なくてはならない存在になっていくでしょう。