金属の塗膜を剥がす作業は、製造現場では欠かせない工程です。これまでの主流は、バーナーで焼く・薬液で溶かす・ブラストで削るという方法。しかし、熱・臭気・粉じん――いずれも作業環境に負担が大きく、「もっと安全でクリーンなやり方はないのか」という声が高まってきました。 その答えとして注目されているのが、レーザーによる塗膜剥離です。
熱・臭い・粉じんのある現場からの脱却
バーナーでの焼き剥がしは手軽ですが、金属ごと高温になり、変色・歪み・酸化スケールが発生しやすくなります。 薬液剥離は、VOC排出や廃液処理が課題。臭気が強く、手袋が溶けるほどの薬剤を扱う現場もあります。さらにブラストは粉塵が舞い、基材を傷つけるおそれも。自転車フレームの再塗装では、ブラスト跡が塗りムラの原因になることもあります。どの方法も“力ずく”で剥がすやり方でした。 そこで登場したのが、光で塗膜だけを飛ばすレーザー剥離です。
光で“選んで飛ばす”という発想
レーザーは、塗膜に含まれる顔料や樹脂だけを瞬時に加熱・膨張させ、塗膜だけを弾き飛ばすという仕組みです。金属はレーザーを反射するため、基材を痛めません。削らず、焼かず、溶かさない。まるで「光の消しゴム」で不要な膜だけを消していくような感覚です。 この技術はすでに、自動車部品や航空機、金型、電子基板などで活用が始まっています。再塗装や整備の現場では、時間短縮と品質安定を同時に実現。薬液も粉も使わず、静かでクリーンな作業環境が広がっています。
“非接触・非消耗・非汚染”がもたらす変化
レーザーは非接触。ブラストのように触れないため、精密部品でも寸法を崩しません。さらに非消耗。薬液や研磨材の補充は不要で、コストはほぼ電気代だけ。そして非汚染。排水や粉塵がほとんど出ず、廃液処理や臭気対策に追われることもありません。環境負荷を減らしながら、作業品質と安全性を高める――。この“静かな革命”が、じわじわと現場に広がりつつあります。
クリーンリサイクルへの一歩
レーザー剥離の魅力は、「その先」にもあります。粉体塗装やIH乾燥と組み合わせることで、剥離から再塗装、乾燥までを電気エネルギーで一気通貫化。薬液もガスも不要なクリーンサイクル塗装が実現します。 脱炭素、省エネ、品質安定――。それぞれのテーマが一つの技術でつながっていく。“焼かない・溶かさない・削らない”という新しい考え方が、これからの塗装リサイクルのスタンダードになるかもしれません。
