「軽くて強い」CFRPが抱える加熱の課題
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は軽くて強く、腐食に強いことから航空機や自動車、医療機器など様々な分野で使われています。環境意識の高まりとともに需要が急増しています。しかし、CFRPの製造や接着に欠かせない加熱には悩みがつきものです。従来はオートクレーブや蒸気炉で金型ごと加熱する方法が一般的で、厚み方向に温度ムラが生じたり、大量の熱が空気中に逃げてしまいエネルギーが無駄になっていました。結果、工程時間は長く、CO₂排出も多くなりがちです。
誘導加熱(IH)って?
誘導加熱はコイルに交流電流を流して磁場を作り、金属や導電性材料の内部に「うず電流(渦電流)」を発生させて発熱させる技術です。近年、この技術が金属だけでなく炭素繊維複合材料にも応用されています。炭素繊維は電気を通すため、渦電流によって材料内部で直接発熱し、大きな金型を温める必要がありません。その結果、加熱時間が短く、エネルギー消費の削減につながる可能性があります。
従来加熱とIHの違い
以下の表は、一般的なCFRPの加熱方法(オートクレーブなど)と誘導加熱の特徴をまとめたものです。
| 観点 | 従来のオートクレーブ/蒸気加熱 | IH(誘導加熱) |
|---|---|---|
| CO₂排出 | 化石燃料を使う場合は排出が避けられない | 再生可能電源を利用すればゼロに近づける |
| 立ち上がり時間 | 数十分〜数時間かかり、朝の準備が大変 | コイル通電後、数秒で材料が発熱 |
| 加熱ムラ | 外側から温めるため、厚み方向に温度差が出やすい | 導電性繊維自体が発熱し、ピンポイントで加熱可能 |
| 熱効率 | 金型や炉全体を温めるため、エネルギーロスが大きい | 必要な場所だけを加熱でき、省エネにつながる |
| IoT・制御性 | 温度計測や制御が難しく、アナログ管理になりがち | 電流・周波数制御が容易で、IoT制御と相性が良い |
従来のガス加熱に比べ、IHは「スマート加熱」と呼べるほどメリットが豊富です。IHで加熱すると、朝一番の立ち上げ待ちがなくなり、ライン停止から再スタートもほぼ瞬時で可能です。温度ムラが少ないので品質も安定し、作業環境も暑くなりにくくなります。この辺りはブルーカーボン時代の新常識として紹介したガス設備の電化と同じ流れです。
身近なCFRP×IHの例
誘導加熱というと工場の専用設備をイメージしがちですが、実は私たちの身近な製品にも応用されています。
自動車のドアやボンネット – 自動車業界ではパネルや補強部材を接着する際にIHで接着剤を硬化させています。スポットボンディングやフルリングボンディングと呼ばれる方法で、ドアやボンネット、フェンダー、ミラーなどに使われる接着剤を短時間で硬化させます。CFRPと金属、CFRP同士を接合する際にも活躍し、精密なエネルギー入力と小さな熱影響で歪みを抑えられるのが特長です。
スポーツ用品や自転車フレーム – CFRP製のテニスラケットや自転車フレームでは、高周波誘導加熱により接合部の樹脂や接着剤を効率的に硬化させます。局所的に発熱するので、カーボン繊維が熱ダメージを受けにくく高い強度を保てます。
リサイクルや環境への広がり
IHは製造だけでなくリサイクル分野でも注目されています。海外の研究コンソーシアムが開発した技術では、高周波磁場によってCFRPの表面温度を瞬時に1200°C以上に上げ、樹脂を効率的に分解することで炭素繊維を高い強度のまま回収できます。従来の熱風や溶剤処理に比べ、IHによる加熱は約10万倍もエネルギー効率が高いと報告されており、リサイクル工程の環境負荷低減にも寄与します。
未来を見据えたマイポックスの提案
現在マイポックスでは、CFRPや金属材料の加熱に適した高周波誘導加熱技術の研究・開発を進めています。研究段階での情報交換や共同開発のご相談も受け付けていますので、関心のある方はぜひお問い合わせください。
参考文献
- F. Lundström, Induction heating of carbon fibre reinforced polymer composites – Characterization and modelling, Lund University (2022)
- Jiazhong Xu et al., “Research on the Heating Process of CFRP Circular Tubes Based on Electromagnetic Induction Heating Method,” Polymers, 2023
- Ketchan Induction, “Induction Heating of Composite Materials”
- ENRX, “Induction bonding solutions for curing adhesives”
- TWI, “Novel Induction Heating Technique for Joining of Carbon Fibre Composites”
- PlasticsToday, “Induction Heating Opens Path to CFRP Recycling” (2025)
