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動き出した次世代パワー半導体の本命候補
次世代パワー半導体の主役交代をめぐる議論の中で、ここ数年で急速に存在感を増しているのが酸化ガリウム(Ga₂O₃)です。SiC・GaNに続く新たな候補材料として研究が進められ、2026年に入って実用化に向けた具体的なマイルストーンが次々と発表されています。
日本の代表的プレイヤーであるノベルクリスタルテクノロジーは、2026年3月から150mm(6インチ)のβ-Ga₂O₃基板のサンプル出荷を開始し、2029年の本格量産を視野に入れています。一方、京都大学発のスタートアップFLOSFIAは、α-Ga₂O₃を用いた4インチウェハの量産化技術を2025年末に大きく前進させました。
「特性」と「コスト」の両面で本命視される理由
なぜこれほど注目を集めているのか。一言でいえば「特性」と「コスト」の両方で次世代の本命になり得るからです。
主要パワー半導体材料のバンドギャップ比較
Ga₂O₃のバンドギャップは約4.8eV(β型)と、SiC(3.3eV)やGaN(3.4eV)を大きく上回ります。理論上の絶縁破壊電界はSiCの2倍以上に達し、高耐圧・低損失デバイスの設計余地が一気に広がります。
さらにGa₂O₃は融液成長(EFG法など)が可能なため、基板コストはSiCの数分の一、見方によっては1/50近くまで低減できる可能性が指摘されています。EV・再生可能エネルギー・データセンター・宇宙開発――電力を制御するあらゆる場面で、これだけの差は大きな競争力につながります。
加工現場で立ちはだかる「劈開」という壁
ただし、研磨を生業とする私たちの目線から見ると、Ga₂O₃は「夢の材料」であると同時に「極めて扱いにくい材料」でもあります。
実際にレジンボンドおよびメタルボンドのダイヤモンド研磨パッドを使ってGa₂O₃を研磨した経験があります。それまでサファイアのような「なかなか削れない硬脆材料」を中心に評価していたため、最初に砥粒をあてた瞬間の率直な感触は「これは意外と簡単に削れるな」というものでした。ところが研磨後の表面を観察すると、先行研究で報告されている通りのクラックとボイドが確認され、加工中に試料自体が割れてしまうことも実際に発生しました。「削れること」と「使えるレベルに磨けること」がまったく別物だと痛感した瞬間でした。
β-Ga₂O₃の劈開性について
β-Ga₂O₃は単斜晶系という結晶構造を持ち、(100)面および(001)面に明瞭な劈開性を示します。研究報告によれば、ラッピングや粗研削の段階で表面から40µmにも達する垂直クラックやボイドが結晶内部に侵入することがあります。目に見える表面粗さの裏側に、デバイス特性を直接損なう「サブサーフェスダメージ(SSD)」が深く残ってしまうのです。
FLOSFIAも、α-Ga₂O₃の信頼性ばらつきの主因として「微小な表面凹凸」と「特殊な結晶欠陥」の2点を挙げ、これを高感度に検出する技術を独自に確立したと公表しています。加工品質がデバイスの信頼性そのものを左右する段階に入っている、ということです。
「割らずに削り取る」プロセス設計が鍵を握る
私たちが日々向き合っているSiCやサファイア、GaNといった硬脆材料の加工と比べても、Ga₂O₃の難しさは別格です。硬さだけを見ればGa₂O₃のモース硬度は6.5前後で、SiC(9)やサファイア(9)よりむしろ低いものです。にもかかわらず難加工材料とされる最大の理由は、この「劈開」と「脆性」の組み合わせにあります。
砥粒で押し込めば割れ、引きずれば剥がれる。研削抵抗の小さなフリーカッティング設計だけでは到底足りず、砥粒の形状・粒度分布・ボンド剛性・スラリーの化学条件、そのすべてを「割らずに削り取る」方向に最適化し直す必要があります。
Ga₂O₃低ダメージ研磨の最新アプローチ
Si研磨で実績のある化学反応性を活かし、Ga₂O₃に対しても低ダメージ研削を実現できることが示されています。
アルカリ性スラリーでOH⁻によるGa-O結合への化学攻撃を活性化させることで、サブサーフェスダメージをほぼ完全に除去できると報告されています。
紫外光照射と組み合わせた光電気化学アシスト加工。「化学+光」を主役にした先端プロセスとして、近年論文発表が相次いでいます。
磨きの技術が次世代パワー半導体の市場を加速させる
Ga₂O₃ウェハ市場が立ち上がるとき、勝敗を分ける要素のひとつは「材料を割らずに磨き切る技術」です。私たちがSiC・サファイア・GaNの加工で培ってきた知見は、Ga₂O₃の課題にも確実に活きます。
私たちが持つ硬脆材料加工の知見
材料を作る側と、それを使えるカタチに整える側――この両輪が揃って初めて、新材料は市場に出ていきます。Ga₂O₃はコスト競争力からも、いずれ量産材料として一般化していく可能性が高い素材です。
次世代パワー半導体の波に、研磨側からどう応えるか――酸化ガリウムは、その問いを最も鋭く私たちに突きつけている材料です。
記事No,423
