はじめに
次世代太陽電池の話題で必ずと言っていいほど並んで登場する「ペロブスカイト」と「カルコパイライト」。この2つは、どちらが優れているかを競わせる関係ではありません。得意とする光の波長帯が異なり、ペロブスカイトを上のセル、カルコパイライト(実務上はCIS/CIGS)を下のセルに重ねる「タンデム(多接合)」構造でこそ、本領を発揮する補完関係にあります。
製造業に身を置く立場から技術トレンドを追っていると、新材料は「どちらが勝つか」というゼロサムの語られ方をしがちです。しかしこの2つに関しては、勝ち負けではなく「役割分担」で理解するほうが、技術の現在地も量産化の課題もずっと正確に見えてきます。
目次
そもそも「鉱物の名前」ではない
最初に押さえておきたいのは、太陽電池に使うペロブスカイトやカルコパイライトは、天然鉱物そのものをそのまま使うわけではない、という点です。
米国エネルギー省(DOE)によると、太陽電池でいうペロブスカイトとは「名前が結晶構造に由来する材料群」であり、太陽電池用途では主に金属ハライドペロブスカイト(代表例:MAPbI₃系)が使われます。一方のカルコパイライトについても、産業技術総合研究所は「CIS系・CIGS系・カルコパイライト系と呼ばれるものの、黄銅鉱CuFeS₂そのものを使うわけではない」と明記しています。
よく言われる「灰チタン石の一種」「黄銅鉱の一種」という表現は、厳密には鉱物そのものではなく、結晶構造のファミリーを指す言い方と理解しておくのが正確です。実際に使われるのは、ペロブスカイト側が有機イオン・金属・ハロゲンを組み合わせた化合物、カルコパイライト側がCu(In,Ga)Se₂を中心とするCIGS、あるいはガリウムを含まないCISです。
光の取り込み方が決定的に違う
この2つの最大の違いは、どの波長帯の光を得意とするかにあります。
2026年のNature Communications論文では、30%超を達成したモノリシック(単一基板上で直列接続された)ペロブスカイト/CIGSタンデムにおいて、上部のペロブスカイトが1.67eV、下部のCIGSが1.01eVという構成が報告されています。波長に換算すると、上部セルの吸収端はおよそ743nm、下部セルはおよそ1,228nmです。
つまり、ペロブスカイトは可視光を中心に、CIGSは赤色端から近赤外までを受け持つのが得意ということです。「可視光はペロブスカイト、赤外光はカルコパイライト」という整理には、はっきりした物理的根拠があります。同論文が示す理論最適値(上部1.62eV、下部0.96eV)も、この設計思想を裏づけています。
効率の現在地――タンデムはすでに30%超
効率について、現時点の到達点を整理しておきます。
量産の成熟度では、カルコパイライトが数歩先
量産化という観点では、カルコパイライト系が一歩どころか数歩先を行っています。
ここで重要なのは、工程の親和性です。ペロブスカイトもCIGSも、薄膜を積層し、透明電極を使い、レーザースクライブでセルを分割し、封止してモジュール化するという点で共通しています。CIGSで培われた「成膜・配線・封止・連続生産・品質管理」という工場技術を、ペロブスカイトへ横展開できる可能性があります。材料そのものではなく、ものづくりのノウハウの転用――ここに産業としての連続性が見えてきます。
耐久性と環境負荷――「やさしい」で片付けない
耐久性では、現時点でカルコパイライトに分があります。先述の25年保証や、宇宙環境・極寒から高温まで多様な条件での実績がそれを物語ります。対してペロブスカイトは、DOEもNEDOも中心課題は耐久性だと明言しています。NEDOは2025年時点で、フィルム型ペロブスカイトについて加速試験ベースで約10年相当の耐久性を見込む一方、光と熱が同時にかかる条件での長期データ不足や標準化の遅れも認めています。
「ありふれた材料」という表現は、少なくともCIGSについてはやや強すぎます。鉛・カドミウム・インジウム・ガリウム、そしてリサイクル設計まで含めて評価して初めて、環境負荷を語れるというのが実態です。また「有機溶剤を使わない」という主張も、採用する成膜方式によって変わる話であり、業界全体の一般論として扱うのは早計です。
一文でまとめるなら
CIGSが築いてきた薄膜量産の産業基盤の上に、ペロブスカイトの高効率という伸びしろを重ねる――シリコンが苦手とする軽量・フレキシブル用途という市場を、両者の役割分担で取りに行く。これが、次世代太陽電池をめぐる技術競争のいちばん現実的な読み筋だと考えます。
技術を「どちらが勝つか」で見るのか、「どう組み合わせるか」で見るのか。製造業の現場が問われているのは、いつも後者の発想なのだと思います。
