循環が当たり前の世界と、かけすてが当たり前の世界
同じダイヤモンドスラリーでありながら、用途によって使われ方は正反対です。ワイヤーソー用途では、スラリーは循環使用が基本であり、実質的に100%が回収・再供給のループの中で運用されています。一方、ラップ工程では循環ではなく「かけすて」、つまり一度通したスラリーは回収せず流してしまう使い方が一般的です。
この対比こそ、研磨という仕事の本質を考えるうえで面白い入口です。なぜ同じ砥粒が、片方では当然のように回され、片方では当然のように捨てられるのか。その問いに向き合うことが、工程設計の最適化につながります。
「面質に影響する」という説明の中身
お客様から「ダイヤスラリーは循環利用できないのか」と問われることは多くあります。これに対してスラリーメーカーは、ラップにおいては面質への影響があるため、かけすてが前提になると説明します。これは技術的に理由のある説明です。
ラップ中のスラリーには、削れたワークの切り屑、結晶粒の脱落(粒抜け)で生じた破片、凝集した砥粒、丸くなった砥粒などが混じり込んでいきます。これらが系内に蓄積すると、有効砥粒の粒度分布が崩れ、スクラッチや面荒れの原因になり得ます。とくに仕上げラップでは、わずかな異物が面質を左右するため、循環をためらう理由は理解できます。
語られにくい、もう一つの側面
ただ、「面質に影響するから」という説明だけで終わらせることが、必ずしも顧客フレンドリーではないと感じています。正直に言えば、循環利用が進めば消耗品としてのスラリー販売量は減ります。供給側のビジネス構造として、その側面があることを完全に否定することはできません。
もちろんメーカーが意図的に循環を妨げていると断ずるつもりはありません。しかし「面質に影響するから」という一言で思考を止めてしまうと、お客様が本来得られたはずの選択肢を提示しないことになりはしないか、という問いは残ります。
粗ラップにはフィルター処理の余地がある
注目したいのは、工程の切り分けです。仕上げラップと、15μmや6μmといった粗ラップ工程とでは、要求される面質も、スラリー中の異物が与える影響も大きく異なります。粗ラップは取り代を稼ぐ工程であり、サブミクロンの面質を競う段階ではありません。
ここには技術的な裏づけもあります。CMPスラリーの再利用ではクロスフロー濾過で砥粒を濃縮しつつ異物を除去し、密度計で砥粒濃度を測りながら補充する制御がすでに実用化されています。さらに、ダイヤの比重は約3.5、シリコンは約2.3と差があるため、サイズが近くても比重分離で切り屑と有効砥粒を選別しやすいという特性があります。粗ラップは、まさにこの「サイズと比重の二段選別」が効く領域です。
顧客フレンドリーであるために
循環か、かけすてか。これは二者択一ではなく、工程ごとに最適点を探る設計課題です。仕上げはかけすて、粗ラップは適切な分離処理を介した部分循環、という組み合わせも十分に現実的な選択肢です。
供給側にとって短期的には販売量の話が頭をよぎるかもしれません。しかし、お客様のランニングコストと廃液負荷を一緒に下げる提案ができる供給者こそ、長期的に選ばれるはずです。問われているのは技術だけではなく、誠実さの設計でもあります。
まとめ
ラップ工程における「かけすて」は、技術的な合理性を持つ慣行です。しかし、それが唯一の答えというわけではありません。工程の特性を見極め、粗ラップでは部分循環という選択肢を検討することで、コスト削減と廃液負荷の低減を同時に実現できる可能性があります。
スラリー管理の最適化は、砥粒の性質・工程要求・分離技術の三つを組み合わせて考えることから始まります。お客様の工程に合った提案をご希望の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
記事No,474
