目次

  1. AlN研磨の本当の難所は「脱粒」にある
  2. なぜ脱粒が起きるのか
  3. 遊離砥粒・固定砥粒、それぞれの当たり方
  4. 砥粒に求める性質 ― 硬さ・破砕性・大きさ
  5. 「全面で押し付ける」という発想 ― 研磨テープ
  6. 現場と業界の視点で
  7. まとめ

AlN研磨の本当の難所は「脱粒」にある

AlN(窒化アルミニウム)は、高い熱伝導率と絶縁性を併せ持つ放熱基板の代表格で、パワー半導体まわりで欠かせない材料です。私は基板の研磨に携わるなかで、この材料をダイヤモンドの研磨パッドで加工した経験があります。

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そこで実感したのは、AlNの難しさは硬さではないということでした。ダイヤモンドで削ること自体に問題はありません。本当の難所は、結晶粒の脱落、いわゆる「脱粒」にあります。 AlNは微細な結晶粒が焼き固められた焼結体であり、加工中にこの粒がまるごと一つ抜けてしまうことがあります。文献でも、AlNは焼結体であるがゆえに研削中に粒子が容易に脱粒し、細かい表面粗さを得にくいと指摘されています。一粒抜ければその痕が深い窪みとなり、表面粗さは大きく跳ね上がります。放熱基板は他部材と密着させて熱を逃がす用途であるだけに、わずかな窪みでも接合や熱伝達の妨げになりかねません。削れないのではなく、削り方を誤ると面が荒れる――これがAlN研磨の勘所だと、私は身をもって知りました。

用語解説 脱粒とは AlNは微細な結晶粒が焼き固められた焼結体で、加工中に粒がまるごと脱落する現象。一粒抜ければ深い窪みとなり、表面粗さが大きく跳ね上がる。削れないのではなく、削り方を誤ると面が荒れる――それがAlN研磨の勘所です。

なぜ脱粒が起きるのか

脱粒には材料側の理屈があります。AlNの焼結体は、方位の異なるAlNの結晶粒と、粒界に存在するイットリア(Y2O3)系の助剤相からなる多結晶・多相体です。研磨で材料が取れるとき、粒の内部を貫いて取れる「トランスグラニュラー」か、粒界に沿って割れて取れる「インターグラニュラー」かで結果が分かれます。粒内破壊が優勢なら平滑で反射する面になり、粒界破壊と脱粒が優勢なら粗く反射しない面になる、と整理されています。結晶方位や助剤相の違いによって研磨されやすさが場所ごとにばらつき、それが粒界の段差として残る点も、AlN特有の悩みです。

研究知見:荷重と脱粒の関係 大きな研磨荷重をかけるほど脱粒が起きてピットが増える一方、低荷重・低圧で削り取る手法ほど脱粒を抑えやすいことが分かっています。


遊離砥粒・固定砥粒、それぞれの当たり方

この観点で見ると、砥粒の当たり方が結果を左右します。遊離砥粒によるラップは、砥粒が転がりながら点で強く食い込むため、脱粒を誘発しやすい方式です。AlNヒータ基板の例でも、ラップ仕上げでは緩んで脱落した粒が見られたのに対し、より穏やかな研磨仕上げでは脱落粒が見られなかったという報告があります。

一方、3M社のトライザクトに代表される固定砥粒パッドという選択肢もあります。ウレタンパッドの上にレジンボンドでダイヤを固着させた研磨材で、装置の定盤に貼り付ければ、遊離砥粒で回す装置を簡易的に固定砥粒の砥石風の方式へ切り替えられます。番手は一般に1ミクロンから100ミクロン程度まで展開されており、仕上げ面や平坦度の点で遊離砥粒より有利という報告もある、実績のある方式です。ただし固定砥粒は、固い固定点が個々の砥粒に荷重を集中させやすく、その一点がAlNの粒をてこのように押し出してしまう場面も考えられます。「点で当たる」という性格は、脱粒を避けたい材料にとっては諸刃の剣になりうるのです。

砥粒に求める性質 ― 硬さ・破砕性・大きさ

そこで効いてくるのが、砥粒そのものの性質です。硬さ・破砕性・粒径――この三つをどう組み合わせるかが、粒を「いなす」研磨に近づく鍵だと私は考えています。

1 硬さ AlNを確実に削るには、ダイヤモンド砥粒が扱いやすい素材です。
2 破砕性 適度に微小破砕して自生発刃する性質があれば、粒界へのダメージを抑えやすくなります。
3 大きさ 砥粒が小さいほど一粒あたりの荷重が下がり、延性的な除去に寄せやすくなります。

「全面で押し付ける」という発想 ― 研磨テープ

私が理想と考えるのは、砥粒を点で当てるのではなく、面で全体を押し付けるように研磨する形です。荷重が広い面に分散すれば、特定の一粒に脱粒を引き起こすほどの局所応力はかかりにくくなります。これは、荷重を抑えるほど脱粒が減るという先の知見とも方向性が一致します。柔らかい弾性体がワークに沿って接触する「コンフォーマル接触」を保ち、接触圧を適切にコントロールすることが面質を左右する点も、研磨では広く知られています。

⑤ダイヤモンドフィルム

ここに、私は研磨テープの可能性を感じています。柔軟なフィルムを弾性のある裏当てに載せ、常に新しい砥粒面を送りながら全面で押し当てれば、固定砥粒パッドより荷重を均一化し、粒界に優しく当たることが期待できます。

現場データ
チッピング・クラックを抑制
薄く繊細な基板でも安定
私たちのフィルム研磨によるエッジ加工では、砥石方式に比べこの2点が確認されています。

テープがAlNの脱粒をすべて解決すると決めつけるつもりはありませんが、番手・接触圧・送り速度を振りながら検証を重ねる価値は十分にあると考えています。

現場と業界の視点で

もちろん、研磨テープが万能というわけではありません。原子レベルの最終仕上げでは、AlN向けにプラズマ援用研磨のような化学的でソフトな手法の研究も進んでおり、そちらが主役になる領域もあります。

それでも、脱粒を抑えつつ効率よく面をつくる中間・仕上げ工程として、全面接触で押し付けられるテープ方式は評価に値すると私は見ています。遊離砥粒、固定砥粒パッド、そしてテープ。それぞれの当たり方の違いを、材料の脱粒しやすさと突き合わせて選ぶ――AlNのように扱いの難しい材料ほど、この引き出しの多さがものを言います。私たちは、その引き出しを一つずつ確かめているところです。

遊離砥粒 点で強く食い込み、脱粒を誘発しやすい方式です。
固定砥粒パッド 平坦度で有利な一方、荷重が一点に集中しやすい方式です。
研磨テープ 荷重を面全体に分散し、粒界に優しく当たることが期待できる方式です。


まとめ

研磨フィルム

AlN研磨における脱粒は、硬さではなく粒界破壊によって生じる現象です。荷重を抑え、砥粒を「点」ではなく「面」で当てることが、脱粒を抑える鍵になります。遊離砥粒・固定砥粒パッド・研磨テープにはそれぞれ異なる当たり方の特性があり、AlNのように扱いの難しい材料ほど、これらを使い分ける引き出しの多さが求められます。研磨テープによる全面接触というアプローチは、その有力な選択肢のひとつといえるでしょう。


記事No,494