複層ガラス研磨で砥石研磨だとガラスが割れるというようなデメリットを感じていませんか?
複層ガラスで一般的な砥石研磨にはコスト面・品質のデメリットがあります。そこでお勧めしたいのが柔軟性のある不織布による研磨です。では不織布の研磨にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
今回は、複層ガラスを製造する際に必要な工程である研磨について説明していきます。

目次

  1. 複層ガラス(ふくそうガラス)とは
  2. Low-Eガラスで断熱性アップ
  3. 複層ガラスで主流の砥石研磨の現状
  4. テストで明らかになった不織布研磨の優位性
    1. 工場ごとの標準化に注力 正式採用へ
    2. 更に問題点を深堀りする
  5. 現在の活動

複層ガラス(ふくそうガラス)とは

今回は、新しい研磨方法として不織布研磨を紹介したいと思います。 その前に複層ガラスの基礎知識について説明します。

複層ガラス(ふくそうがらす)とは、スペーサーと呼ばれる金属部材で、二枚のガラスの間に中空層を持たせたガラスです。別名ペアガラスと呼ばれることもあります。スペーサーを用いて保たれた空間は、乾燥空気を封入してあります。住まいの快適さを大きく左右する要因の一つは【熱】が要因となります。熱の移動によって冷暖房効果の低下や、結露の発生など、住まいの快適さを損なう様々な問題が起こります。

複層ガラスは、熱が最も移動しやすい『窓』の断熱性能を高め、それらの問題の多くを解決することに役立つ物になります。
さらに、遮熱や紫外線カット、防犯、防火などの機能を備えた高性能複層ガラスを使用することで、それぞれの地域と住まいに合わせて心地よい経済的な暮らしが実現できることに貢献します。

Low-Eガラスで断熱性アップ

複層ガラスを説明する中で必ず登場するキーワードが【Low-Eガラス】です。 Low-Eガラスとは、通常のフロートガラスの片側表面に非常に薄い特殊金属膜をコーティングしたガラスのことをいいます。 複層ガラスの材料として使用することで、断熱性も高めることができ、冷暖房両方の負荷を軽減します。省エネにすぐれたガラスになります。

複層ガラスは、Low-E膜はコーティングを維持したままではガラスの装着はできません。この金属膜が剥離剤の役割をしてしまい枠に装着できないからです。

そこで、ガラスの四辺にコーティングされているLow-E膜を除去する必要があります。ここでようやく『研磨』の出番になります。ガラス四辺にコーティングされたLow-E膜を当社製品11㎜幅で研磨していきます。

複層ガラスで主流の砥石研磨の現状

某ガラスメーカーでは自動機に取り付けられたホイールが立てられた状態で投入されてきた板状のガラスの三辺(縦、横、縦)を研磨していきます。同時にもう一つのヘッドが底辺部の一辺を研磨する方式となります。
一般的な研磨方法は、研磨機メーカーが標準で装着している砥石※1がメインとして使用されています。
この砥石(といし)研磨のデメリットとして下記の3点があります。

1 砥石(といし)のコストが高い
2 海外からの輸入品が多いため一回の購入ロットが大きい
3 ガラスのような硬いワークと砥石のような硬い素材をぶつけ合うため、研磨時にガラスが割れたり欠けたり(貝欠け)する事例が発生します。

今回の事案では砥石に替わる素材として不織布にフォーカスし研磨精度を上げる提案をおこないました。


※1【砥石】
砥石は、金属や岩石などの硬い素材を切削、研磨するものです。包丁などの刃物を手作業で研いで切れ味を回復させる小型の角砥石だけでなく、工作機械などに取り付けて回転させ、部品製造など金属加工に使われる大きな円盤も砥石と呼ばれます。生産金額ではむしろ工業用砥石の方が圧倒的に比率が高いです。

テストで明らかになった不織布研磨の優位性

テスト品名:プレスドホイールNLC(不織布ホイール、ふしょくふほいーる)
粒度:♯120相当
サイズ:200×11×76.2

テスト1回目の結果は、標準品である砥石と比較すると耐久性も良くガラスの割れおよび欠けも発生しない結果がでました。砥石は研磨作業中に多くの埃が発生しますがNLCホイールでは埃が少なく耐久性も良いという順調な評価結果を出すことができました。また、砥石に対してコスト面でも優位に立てる状況になりました。

工場ごとの標準化に注力 正式採用へ

しかし、ユーザーテストでは高評価にもかかわらずなかなか正式発注がこない状況が続きました。理由はなぜか?もう一度作業上程を確認し見直しを行いました。

要因としては、複層ガラス製造工場は大規模工場が多くあります。工場内にほぼ同一の設備を配置しています。押しつけ圧力、角度、回転数、位置決めなど設定が各工場でバラバラであったため、評価結果のばらつきが発生したことが問題となりました。プレスドホイールNLC自体の問題ではなく砥石から切り替えを行うには各工場の仕様標準化が必要になることがわかりました。

そこでターゲットを1つの工場に絞り工程内の仕様決めを行い、標準化できる体制を進めていきました。ターゲットのA工場では、特にガラスの欠けを嫌っていました。その原因は、砥石、プレスドホイールNLCともに『気泡』が要因であることが分かりました。気泡が大きいことによりその気泡エッジにガラスが引っかかる可能性が高くなり、欠けが発生することが分かりました。

そこでプレスドホイールNLCの密度を上げて気泡を小さくする処方を行いました。この処方によりガラスの欠けは大幅に減少しA工場での採用が決定しました。

更に問題点を深堀りする

次の横展開として別のB工場を選定し仕様確認及び工程内問題点を探っていきました。

この工場では、『弾性砥石(※3)』のホイールを使用していました。弾性砥石を使用することによって生じるデメリットとして下記の2点がありました。

1 研磨作業中の研削力の調整が難しい素材になります。
2 砥石の素材のなかではやわらかい素材だがNLCホイール(不織布ホイール)と比較すると柔軟性(なじみ)が良くありません。

このデメリットを解消する方法を工程内の仕様および問題点を探っていくようにしました。

テスト開始直後は、弾性砥石→不織布への切り替えは、ガラスに対しての押し当て圧力が大きく異なるため研磨機のセッティングがうまくいきませんでした。押し当て圧力の数値を可視化するために、はじめの設定はゼロからスタートしました。

押し当て圧力をゼロからテストを進めていった結果、圧力が弱くてもプレスドホイールNLCは規定に見合う研削力を出すことが可能だと分かりました。押し当て圧力を極力小さくすることで不織布繊維の摩耗も少なくなることがわかり、テスト当初のプレスドホイールNLCの使用方法と比較すると3倍の耐久性を出すことに成功しました。

砥石と比較するとプレスドホイールNLC(不織布)がガラスの割れおよび欠けの問題が圧倒的に少なくなり複層ガラスユーザー様から採用に至り使用されています。

現在の活動

複層ガラスの研磨工程の改善を継続していきながら防火設備用ガラス(網入りガラス)のワイヤーバリ取り作業の工程簡素化にも取り組んでいます。 現在は、たばね型ディスク(※4)(製品名:ハイハイディスク)を提案し採用にいたりました。より工程短縮および安全対策のために人為的な研磨作業を少なくするため、研磨機を用いたベルト研磨布を提案し採用活動を行っています。

また、廃棄物処理の縮小を目的として耐久力アップのダイヤ製品での開発にも取り組んでいます。

〔注2〕不織布研磨剤(ふしょくふけんまざい)
細いナイロン糸の繊維を絡ませた基材(白原反)に接着剤で砥粒を付着させた弾性のある研磨材のことをいいます。 大きく分けて砥粒の付け方は2通りあります。

1.どぶ付け方式(ディッピング)
細粒度に多く見られるが樹脂に砥粒を均一に混ぜ、この中に基材を通す方法になります。
2.吹き付け方式:
樹脂を付けた基材の表裏にスプレーで砥粒を吹き付ける方法になります。

不織布研磨剤(ふしょくふけんまざい)
(画像= 〔注2〕不織布研磨剤(ふしょくふけんまざい))

〔注3〕弾性砥石(だんせいといし)
弾性砥石とは、砥石の中でもゴムやスポンジなどの比較的やわらかい素材で作られた砥石のことです。柔軟性が高く、傷をつけにくいため金属製品やガラス、プラスチックなどさまざまな素材に使用できます。建築現場や、車の修理工場、金属製品の加工場など、溶接や組み立てを行う現場で使用されているアイテム。弾性研磨砥石の中には、乾式専用のものもあるため使用する研磨材や状況には注意が必要です。

〔注4〕たばね型ディスク
布基材の素材を植え込んである研磨ディスクになります。 研磨材と研磨材の間にすきまがあるため空冷効果が働き大きな熱を与えません。 面で当てて研磨する工法ですので研磨力が安定し、目づまりを起こしにくい構造が特徴になります。

たばね型ディスク