金属の“強さ”は、その素材だけでなく、どこに・どのように熱処理を加えるかによって決まります。高周波焼入れは、金属表面に高硬度層を形成し、内部の靱性を維持することで、部品の耐摩耗性と耐衝撃性を同時に高める技術です。焼入れの分野でも、フレキシブルIH(誘導加熱)コイル技術を通じて、新たな熱処理の可能性を追求しています。
高周波焼入れとは
高周波焼入れは、鋼材の表面を800〜1000℃以上の高温に瞬時に加熱し、その後急冷することでマルテンサイト相を生成し、表面に硬化層を作る技術です。ギア、シャフト、カムなど、耐久性が求められる部品に広く採用されており、製品の性能と寿命を支える要素技術として位置づけられています。 現在も多くの現場では、ガスバーナーや熱風炉を用いた加熱方式が主流ですが、これらは加熱対象以外の空間や装置も同時に加熱するため、エネルギー効率や加熱制御の精度に課題を抱えています。その点、IH加熱は金属内部に渦電流を誘導して自己発熱させる非接触型の加熱方式であり、必要な部分にだけ加熱を集中できるため、省エネかつコンパクトな熱処理工程が可能です。

フレキシブルIHコイル
従来のIH加熱では、固定型コイルの制約により、形状が複雑なワークへの均一な熱処理が課題となっていました。この課題に対し、対象形状に柔軟に追従できるフレキシブルIHコイルを導入することで、湾曲や段差のある部品でも、熱ムラを抑えて安定した加熱が可能となっています。

さらに、電磁界シミュレーション技術を用いた設計により、部品の形状や材質に応じたコイル形状・加熱配置を事前に最適化しています。これにより、焼入れ深さの傾向を把握し、設計段階で品質を高めることができます。
環境と生産性への貢献
誘導加熱は、従来の炉型加熱と比べて、必要最低限のエネルギーで高温加熱を実現できる技術です。加熱効率の向上により、製造現場の省エネルギー化とCO₂排出量の削減に大きく貢献します。カーボンニュートラルの実現が求められる時代において、IH加熱は環境対応型ものづくりの中核技術として位置づけられています。

今後の展望
高周波焼入れは今後、EVパワートレイン部品やロボティクスなど、より高精度かつ信頼性の高い熱処理が求められる分野への展開が期待されています。熱処理技術の進化を通じて、より高性能かつ環境負荷の少ないものづくりを支える熱源であり続けたいと考えています。
