
製造業の開発担当者にとって、「塗料はあるけれど塗工設備がない」「社内設備が埋まっていて試作ができない」「フィラー入り製品でコンタミを避けたい」といった課題は日常的な悩みです。特に電子デバイスや光学フィルムの分野では、1〜10μmという極薄膜を高精度で塗工する技術が求められます。こうした課題に対応できるのが、設備不要で試作から量産まで対応可能な受託製造サービスです。

キスリバースグラビア塗工とは?
キスリバースグラビア塗工は、グラビアロールの微細セルを活用し、極薄膜を高精度で形成できる先進的な塗工技術です。基材へのダメージが少なく、柔軟なフィルムにも適用可能で、特に低粘度の液体(10〜300mPa·s)に適しています。この技術の特徴は、塗工時にグラビアロールが基材の進行方向とは逆に回転する逆転駆動システムを採用していることです。この仕組みにより液供給が安定し、膜厚の均一性が向上します。また、グラビアロール表面の微細セルに塗工液を充填することで液量を精密に制御し、さらにドクターブレードによって余分な液を除去することで、高品質な塗工層を実現しています。
技術仕様と高精度塗工のメリット
キスリバースグラビア塗工では、膜厚は1〜10μm、対応可能な粘度は10〜300mPa·sに設定されています。膜厚は液物性に依存しますが、塗工厚の変更はロール交換や条件調整で容易に行え、10μm以上の厚膜にも対応可能です。製品サイズに応じた塗布幅の調整も柔軟に行えます。低粘度液体でも均一に塗布できるため、水系・溶剤系問わず幅広い用途に適応し、感圧性や薄膜基材にもダメージを与えません。塗布開始や終了時の塗料・基材ロスは発生しますが、ダイヘッド方式に比べると少なく、効率的に試作や量産が可能です。また、少量試作では必要液量の管理が課題になる場合がありますが、粘度や表面張力など液物性を適切に制御することで、塗工品質の安定化が実現できます。
項目 | キスリバースグラビア |
---|---|
適用膜厚 | 1〜10µm ※10µm以上は塗工ヘッドをダイヘッドに切替可能 |
対応粘度 | 10〜300mPa·s |
膜厚制御 | 液物性依存 |
基材負荷 | 極低負荷 |
塗布幅調整 | 現物適合 |
技術的利点 |
・塗工厚の変更が容易:ロール交換や条件変更で柔軟に対応可能 ・塗布幅(有効幅)の変更が可能:製品サイズに応じた調整が容易 ・極薄膜の高精度形成:1μm単位での膜厚制御が可能 ・低粘度液体への対応力:水系・溶剤系どちらも均一塗布 ・基材保護性能:感圧性・薄膜基材にもダメージレス |
技術的制約 |
・塗布開始・終了時の材料ロス:塗料・基材ロスが多めになる傾向 ・最低必要液量:少量試作には不向きな場合もある ・液物性依存性:粘度・表面張力の管理が品質安定の鍵 |
キスリバースグラビア塗工は、極薄膜の高精度形成や低粘度液体への対応力、薄膜基材へのダメージレスという点で優れています。一方で、液物性への依存が強く、膜厚が10μmを超える場合にはダイヘッド方式への切替が推奨されます。ダイヘッド方式と比較すると、キスリバースグラビアは1〜10μmの薄膜塗工に最適で、ライン速度を上げることで高速処理も可能です。
塗工プロセスの流れ
キスリバースグラビア塗工は、以下の3つのステップで高精度な薄膜形成を実現します。各工程での精密な制御が、最終的な膜厚均一性と品質安定性を決定します。

液パンに塗工液を溜める工程です。外側にあふれないよう送液ポンプの回転数と戻りのサンドバイパーで塗工液の循環量を精密に制御します。この循環システムにより、塗工液の温度・粘度の安定化と、気泡の除去を同時に行います。

塗工液が溜まった液パンを上昇させ、グラビアロールをアジテートボタンにて回転させます。液パン内に浸けることでグラビアロールの溝(セル)に塗工液を充填させます。液が全幅に充填したらドクターブレードを当て、余分な塗工液を掻き落とします。この工程が膜厚制御の核心部分となります。

グラビアロールとドクターブレードの役割

グラビアロールの表面は斜線型のミール彫刻が施されており、線数(lpi)によってセル容量が決まり、最終的な膜厚に直結します。
線数の目安
厚塗り | 80 ⇔ 250 | 薄塗り |

端部はマスク処理で塗布幅を調整することができ、全幅塗布による端部の盛り上がりを防ぎます。

産業応用と受託製造のメリット
キスリバースグラビア塗工は、電子デバイスのITO膜や有機EL層、液晶配向膜、光学フィルムの反射防止や接着層、高機能材料のバリア膜や帯電防止層など、幅広い産業分野で活用されています。受託製造を活用すれば、塗工機を保有していない企業でも材料を持ち込むだけで試作や量産が可能で、初期投資ゼロで技術検証や製品開発をスピーディに進められます。また、社内設備の空き待ちやリソース不足による開発スケジュールの遅延を防ぐことができ、専門スタッフによる塗工条件の最適化や品質管理もワンストップで提供されます。

まとめ
受託製造技術は、設備を持たない企業やリソース不足、短納期対応といった課題に対応できます。
キスリバースグラビア塗工は、極薄膜の高精度塗工も可能ですが、塗料の粘度や液物性の管理は品質安定の鍵となります。こうした専門技術の管理も含めて、まずは一度相談することで、社内設備がなくても開発を止めることなくスムーズに進められます。試作や量産の相談から、最適な塗工条件のご提案まで、専門スタッフが丁寧にサポートします。