はじめに

エンジン性能を支える重要部品のひとつ、「カムシャフト」。 吸排気のタイミングを高精度で制御し、出力・レスポンス・燃費・静粛性のすべてに影響を与える心臓部です。 その表面仕上げは、わずかな摩擦抵抗の差が性能を左右するため、μ(ミクロン)単位の精度管理が求められます。

内燃機関のカムシャフト
内燃機関のカムシャフト

お客様の開発現場では、モータースポーツで鍛え上げられた高精度加工技術を量産車エンジンにも取り入れたい――そんな課題意識がありました。私たちはその想いに寄り添い、共に試行を重ねながら、ラッピングフィルムによるカムシャフト超仕上げを量産レベルで実現しました。

目次

  1. モータースポーツが生んだ「精度へのこだわり」
  2. ラッピングフィルムで拓く新しい仕上げプロセス
  3. 焼け防止とプラトー加工 ― 共に導き出した最適解
  4. 成果と今後の展望
  5. まとめ

モータースポーツが生んだ「精度へのこだわり」

モータースポーツエンジン

レースエンジンの世界では、限界を超える高回転・高出力環境の中で、
わずかな摩擦や温度変化が性能差を生みます。
その中で培われた精度へのこだわりは、量産エンジンにおいても共通の価値を持ちます。

お客様が直面していたのは、
「量産ラインでレースクオリティの表面精度を再現したい」という難題でした。

重要ポイント

  • モータースポーツで培われた高精度加工技術の量産化
  • μ単位の精度管理が求められる表面仕上げ
  • 生産条件・加工時間・粒度構成の最適化による量産対応
  • この要望を実現するために、私たちは長年培った研磨フィルム技術を基に、
    生産条件・加工時間・粒度構成などをゼロから見直し、量産に最適化された仕上げ工程を共に構築しました。

ラッピングフィルムで拓く新しい仕上げプロセス

カムシャフトは形状が複雑で、トップ・ベース・R部など部位ごとに研磨特性が異なります。

お客様と協力しながら、数十通りに及ぶ条件テストを実施し、
粗研磨と仕上げ研磨の2工程で仕上げ要求値を安定的に再現できるプロセスを確立しました。

重要ポイント

  • 砥粒が均一に配置されたラッピングフィルムによる高い再現性
  • 粗研磨と仕上げ研磨の2工程による安定した品質管理
  • 研磨時間・圧力・回転数の最適化による量産対応

ラッピングフィルムは、砥粒が均一に配置されているため、
高い再現性と安定した仕上げ品質が得られる点が特長です。
この特性を最大限に活かすため、研磨時間・圧力・回転数のバランスを最適化。
結果として、量産ラインでもレーシングエンジン並みの品質を実現する工程が形になりました。


焼け防止とプラトー加工 ― 共に導き出した最適解

初期のテスト段階では、表面が滑らかすぎることでオイル保持力が低下し、
摩擦熱による「焼け」が発生するという課題もありました。

お客様の開発チームと共に検証を重ねた結果、
粗工程で微細な谷を形成し、仕上げで表面を均しながら谷部を残すプラトー加工を採用。
この構造により潤滑油が均一に保持され、冷却性・耐焼け性・耐久性が大幅に向上しました。

エンジン・改善イメージ

重要ポイント

  • プラトー加工による潤滑油保持力の向上
  • 冷却性・耐焼け性・耐久性の大幅改善
  • 精度と耐久性の両立を実現

精度と耐久性の両立――それはまさに、両社の知恵と技術の融合によって導き出された最適解でした。

成果と今後の展望

この共創プロジェクトで得られたノウハウは、
カムシャフトのみならず、クランク軸や油圧部品など、摩擦・潤滑が重要な機構部品にも応用が可能です。

エンジン部品

お客様の課題に寄り添いながら、生産効率・品質安定・コスト最適化を同時に実現するプロセスが形になりました。

重要ポイント

  • カムシャフト以外の機構部品への応用可能性
  • 生産効率・品質安定・コスト最適化の同時実現
  • お客様と共に創り上げた新しい加工プロセス

今後も、モータースポーツ由来の高精度加工技術を基盤に、
「現場課題に寄り添い、共に解決するパートナー」として、より高い価値を提供していきます。

まとめ

本件は、単なる研磨工程の改善ではなく、お客様と共に創り上げた新しい加工プロセスです。

極限環境で培われた精度思想を量産に落とし込み、性能の最後の1μまで寄り添うことで、ものづくりの可能性を拡げました。

私たちはこれからも、お客様の課題解決に真摯に向き合い、
表面加工の新たな価値を提案し続けていきます。



よくある質問(FAQ)

Q1. なぜカムシャフトの表面仕上げがエンジン性能に大きく影響するのですか?

A. カムシャフトはバルブの開閉を直接制御する部品であり、表面摩擦のわずかな差が出力・レスポンス・耐久性に影響します。
μ単位の表面状態の違いが、摩耗や焼けの発生リスクを左右するためです。

Q2. モータースポーツの加工技術を量産ラインに展開するのはなぜ難しいのですか?

A. レース用加工は時間やコストを度外視できる一方、量産では再現性・加工時間・安定性が厳しく求められます。
同じ精度を「毎回・大量に」出す工程設計が最大の壁になります。

Q3. ラッピングフィルムが量産に向いている理由は何ですか?

A. 砥粒が均一に配置されているため、加工ばらつきが少なく高い再現性を確保できます。
条件管理がしやすく、量産工程への組み込みに適しています。

Q4. なぜ仕上げを滑らかにしすぎると焼けが発生するのですか?

A. 表面が平滑すぎると潤滑油を保持できず、油膜切れが起きやすくなります。
その結果、摩擦熱が集中し焼けにつながります。

Q5. プラトー加工はどのような効果をもたらしますか?

A. 微細な谷部に潤滑油を保持しつつ、山部を均した理想的な表面構造を作ります。
冷却性・耐焼け性・耐久性を同時に向上させる加工です。

Q6. この超仕上げ技術は他の部品にも応用できますか?

A. クランクシャフトや油圧部品など、摩擦・潤滑が重要な部品に応用可能です。
量産と高精度を両立した工程設計が強みです。