目次
1.人工ダイヤモンド調達リスクという現実
近年、中国が人工ダイヤモンドの合成を事実上ほぼ100%担っているという現実を背景に、調達リスクを改めて意識し始めた企業が増えている。この事実自体は、少し調べれば業界関係者であれば誰でも確認できる情報であり、今になって「知らなかった」と語るのは、正直なところ責任感に欠けると言わざるを得ない。
HPHT法やCVD法といった合成技術、装置メーカー、電力コスト、政策支援の集中などを総合的に見れば、中国が圧倒的な優位を築いてきたことは長年にわたり明らかだった。問題は「どこで作られているか」ではなく、「それに依存したままで良いのか」という点にある。
2. 自社合成という選択肢の非現実性
こうした背景から、「人工ダイヤモンドを自社で合成できないか」と考える企業も現れる。しかし現実的に見て、これは極めてハードルが高い。 人工ダイヤモンド合成には莫大な電力が必要であり、装置投資・運用コスト・歩留まり・技術蓄積を考慮すると、研磨材用途において自社合成で投資回収できるケースはほぼ存在しない。 その結果、多くの企業が次に検討するのが「分級工程の内製化」である。
3. 人工ダイヤモンド研磨材の供給構造
研磨用人工ダイヤモンドは、大きく以下の3パターンに分類できる。
- 合成メーカー自身が分級まで行い供給するケース
- 合成後、専門のマイクロナイザー(分級業者)を通すケース
- 既製品を購入し、ブレンドのみ行うケース
研磨品質は、砥粒の平均粒径よりも粒度分布(サイズの揃い具合) に大きく左右される。このため、分級工程を自社で持つことは、品質管理の中核を自社で握るという意味を持つ。
4. 分級工程のレベル差を理解する
「分級」と一言で言っても、その技術レベルには大きな幅がある。 例えば篩(ふるい) は粗粒管理には有効だが、微粉の量や分布を制御することはできない。
ミクロンサイズ以下の分級で広く用いられているのが沈降法である。これは脱イオン水などの液体中にダイヤモンド粒子を分散させ、沈降速度の違いを利用してサイズ分別を行う方法で、基礎理論はストークスの法則に基づいている。
5. 分散状態が分級品質を左右する
沈降法において最も重要な要素の一つが、液中での分散状態である。粒子が凝集した状態では、沈降速度が本来の粒径を反映しなくなるため、正確な分級は成立しない。
そのため、多くのメーカーは液中に分散剤を少量添加している。ここが実は非常に厄介なポイントである。
分散剤は、ダイヤモンド表面の疎水性・親水性を変化させ、水との親和性に影響を与える。実際、複数メーカーのダイヤモンドパウダーを水に投入すると、浮遊するものと沈みやすいものが明確に分かれることがある。これは結晶品質の差というより、分級工程で使用された添加材料の違いに起因する場合が多い。
しかし、このレベルまで理解しているダイヤモンド材料の営業担当者は、残念ながら非常に少ない。
6. 微粉管理という見落とされがちな本質
自社分級を考える際、多くの相談者は「粗粒管理」だけをイメージしている。しかし実際には、微粉量の管理こそがはるかに重要である。
特に焼結工具用途では、微粉の含有量が焼結密度や工具の硬さ、摩耗挙動に直接影響する。微粉が多すぎれば脆くなり、少なすぎれば結合が弱くなる。つまり、微粉管理は性能設計そのものと言っても過言ではない。
7. 分級にかかる時間という現実
沈降法の欠点は、時間がかかることである。粒径が小さくなるほど沈降速度は遅くなり、1µm以下の粒子では沈降に数週間を要するケースも珍しくない。
このリードタイムを短縮する方法は存在する。物理が得意な人であれば容易に想像できるだろう。それが遠心分離技術である。
8. 遠心分離による分級のメリットと注意点
遠心分離は、重力の数百~数万倍の加速度を人工的に与えることで、分級スピードを飛躍的に向上させる。実際、納期が逼迫した際に、ダイヤモンド材料メーカーが採用する手法の一つが遠心分離によるリードタイム短縮である。 ただし注意すべき点として、沈降法と遠心分離では分級結果が完全に一致するわけではない。 粒子形状や凝集挙動の影響が異なるため、品質を安定させるには、どちらか一方に統一する方が本来は望ましい。
なお、遠心分離技術は実は日本酒製造など他分野でも活用されており、ここには興味深い共通点があるが、この話題は別の機会に譲りたい。
9. まとめ ― 分級をやる前に考えるべきこと
分級を自社でやりたいという気持ちはよく理解できる。しかし重要なのは、「分級とは何か」「どこまで管理するのか」「それが製品性能にどう影響するのか」を正しく理解することである。
- 分級は単なる粒径分けではない
- 分散状態と添加剤は品質を大きく左右する
- 粗粒よりも微粉管理の方が難しく、重要である
- リードタイム短縮には遠心分離という選択肢があるが、統一性が鍵となる 分級をやるかどうかを決める前に、まず分級の意味と中身を正しく理解すること。 それが、結果的に最も大きなリスク低減につながる。
記事 No,342
