前回 #02
IH粉体塗装システム編
「ボイラーが回らない時代」の塗装ラインを考える。重油・灯油依存の塗装乾燥工程を電化する技術の仕組み・導入事例・補助金活用まで解説。
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今回 #03
レーザー剥離装置編
薬液・シンナー・ガス焼成に頼ってきた塗装ハンガーの剥離工程を、ファイバーレーザーで置き換える技術を解説します。

前回は、塗装焼付乾燥工程の「燃料依存」をIH粉体塗装システムで解く話をお伝えしました。
今回は三本柱の二本目――レーザー剥離装置です。

塗装ラインで「燃料」の次に深刻な依存構造が潜んでいるのが、ハンガー治具の塗装剥離工程です。ここは長らく、薬液(強酸・強アルカリ)、有機溶剤(シンナー)、そしてガスバーナーや熱処理炉による焼成という三択の世界でした。原油クライシスでシンナー価格が高騰し、都市ガス・LPGコストも上昇しているいま、この「もう一つの依存」を正面から見直す時期に来ています。

レーザー剥離によるイメージ

剥離工程が抱えてきた「三重苦」

塗装ハンガー(治具)は繰り返し使用されるため、定期的に塗膜を剥離しリセットする必要があります。この剥離工程は、製造現場が長年抱えてきた「三重苦」の温床です。

1
薬液コストと廃液処理の負担
強酸・強アルカリの薬液槽を維持するには、薬液コストに加え、廃液の適正処理が義務付けられます。処理コストと手間は年々増加傾向にあります。
2
シンナー高騰・ガスコスト上昇による直撃
有機溶剤(シンナー)方式の現場では、原油クライシスによるシンナー価格の急騰が剥離工程のコストを直撃しています。ガスバーナーや熱処理炉による焼成剥離を採用している現場でも、都市ガス・LPGの価格上昇が直接響いており、代替調達も容易ではありません。
3
作業環境・安全性の問題
薬液・シンナーを扱う工程は、作業者の健康リスクと消防・危険物規制への対応が常に付いて回ります。ガス焼成方式では高温環境での作業リスクに加え、CO₂の排出や治具(ハンガー)の熱変形・劣化という問題も生じます。

レーザー剥離装置とは ― 「電気だけで剥がす」という発想

マイポックスのファイバーレーザー剥離装置は、高速1軸スキャナ方式のファイバーレーザーで塗膜・錆をスキャンして除去します。母体(金属素材)にダメージを与えることなく、薬液もシンナーも一切使わずに剥離が完結します。

IH_レーザー加工画像
レーザー剥離デモの様子
なぜ母材を傷めないのか
レーザーは塗膜と金属の「光吸収率の差」を利用します。塗膜はレーザーエネルギーを吸収して瞬時に気化・蒸散しますが、金属素地はそのエネルギーを反射・散逸させる特性を持ちます。この差を利用することで、塗膜だけを選択的に除去することができます。

ロボットアームにレーザーヘッドを持たせることで、単体では困難だった照射強度・焦点距離・レンズの角度などの加工条件を最適化し、安定した自動化を実現します。レーザー照射の死角を排除し、極めて高い再現性を得るこの「レーザーとロボットの統合制御技術」は、マイポックスの独自のアプローチであり、グローバル市場を見据えた技術開発の実績として国際特許を出願・公開済みです(国際公開番号:WO 2026/074882)。

レーザー剥離加工の比較画像
レーザー剥離加工の比較画像

装置の主要仕様

レーザー剥離装置のイメージ図
レーザー剥離装置のイメージ図
印字方式 X軸ガルバノスキャナ方式
レーザー種類 ファイバーレーザー クラス4
レーザー波長 1080nm
平均出力 1500W
焦点距離(f0レンズ) 1083mm
スキャン範囲(最大) 300mm
スキャンスピード(最大) ≦27,000mm/s
冷却方式 水冷
定格電圧 単相200V±10% 50Hz / 60Hz(ご注文時に選択)
最大消費電力 レーザー発振器 5,000W/水冷機 1,958W
水冷設定温度 夏季:26〜28℃ / 冬季:24〜26℃
使用湿度 10〜80%RH(結露なし)
保管温度 −20〜50℃(結露なし)
保管湿度 10〜95%RH(結露なし)
重量 ヘッド 1.1kg / 本体 180kg
外形寸法 W700 × H1060 × D926.9mm(突起物含む)

従来工法との比較 ― 何が変わるのか

従来工法(薬液・シンナー・ガス焼成)
強酸・強アルカリ槽の維持が必要
廃液の適正処理コストが発生
シンナー価格変動の影響を直接受ける
危険物・消防規制への継続対応が必要
作業者の健康リスクが高い
ガス焼成でCO₂が排出され脱炭素方針と相反する
ガス焼成の高温処理により治具が熱変形・劣化するリスクがある
レーザー剥離装置
薬液・シンナー不要(電気のみ)
廃液ゼロ ― 処理コストが発生しない
石油価格変動の影響を受けない
危険物規制の対象外
自動化により作業者リスクを低減
CO₂排出ゼロ ― 電化による脱炭素に直結
塗膜のみを選択的に除去するため治具へのダメージを最小化
「原油クライシス以前から評価されていた技術」
レーザー剥離は、CO₂削減・省エネ・作業環境改善の観点から以前より注目されてきた技術です。今回のシンナー高騰によって「採用の合理性」がより際立つ局面に来ています。クライシスが去った後も、この優位性は変わりません。

省エネ補助金対象設備としての活用

レーザー剥離装置は、省エネ補助金の対象設備として申請が可能です(Ⅱ. 電化・脱炭素燃転型、またはⅢ. 設備単位型)。薬液・燃料から電気への工程転換は、補助金制度の「電化・脱炭素」の趣旨と合致します。

工場・事業場型
工場・事業場全体の省エネ化を図る設備更新を支援
補助率 1/2(中小)・1/3(大企業) 上限 1億円
電化・脱炭素燃転型
ガスから電気への切換え(新設)
補助率 1/2 上限 3億円(電化機器は上限 5億円)
設備単位型
リストから選択する機器への更新
補助率 1/3 上限 1億円
補助金の活用可否・申請区分については、導入時期や設備仕様によって異なります。詳細はお問い合わせください。

レーザー剥離が「正解」になる場面

以下のいずれか一つでも該当する現場であれば、レーザー剥離装置の導入を検討する価値があります。そしてこれらのほとんどは、今回の原油クライシスとは無関係に、製造現場が以前から抱えてきた課題でもあります。

シンナー高騰対策
廃液処理コスト削減
CO₂削減・脱炭素
作業環境の改善
自動化・省人化
危険物規制対応の簡素化
エネルギー安全保障

おわりに ― 「薬液を使わない剥離」という選択肢を持つこと

シンナーが入手しにくい、廃液処理のコストが重い、ガス焼成の高温で治具が傷む、作業者の安全を確保しながら剥離ラインを回し続けるのがつらい――そうした現場の声に、レーザー剥離装置は正面から応えます。

「いますぐ全面切り替え」でなくても構いません。まず「電気だけで剥離できる」という選択肢を手元に持っておくこと。それが、これからの製造現場のレジリエンスです。


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