遊離砥粒と砥石のあいだにあるもの
研磨の方式を大きく分けると、砥粒をスラリーとして定盤と工作物のあいだに供給する遊離砥粒方式と、砥粒をボンド材で固めた砥石などを使う固定砥粒方式があります。今回は、その中間に位置する製品について書いてみたいと思います。ダイヤモンドに限らず、砥粒をボンド材でシートやパッドの上に固着させた、シート状の固定砥粒製品です。
研磨フィルムも広い意味では同じ仲間ですが、ここで取り上げたいのは、主に研磨フィルムよりも粗い領域を受け持つ製品です。ペレット状の砥粒層をシートに配置したものや、樹脂ボンドで砥粒を固めた層を持つパッドなど、形態はさまざまです。精密仕上げの主役ではありませんが、使いどころを見極めると、とても理にかなった道具だと私は考えています。

装置を替えずに、方式を替える
この種の製品の最大の利点は、既存の研磨装置をほぼそのまま使える点にあります。例えば海外の大手メーカーからは、有機系のバインダーでダイヤモンドを固めた構造化パッドが、粘着層で既存のラップ盤の定盤に貼り付けて使う製品として販売されており、スラリーを使わないことが特長として挙げられています。大学の研究でも、ダイヤモンドペレットを定盤に配置した固定砥粒研磨は、能率が高く廃液処理が簡単な加工法として研究されてきました。
固定砥粒化の効果を得たいとき、真っ先に思い浮かぶのは砥石への切り替えでしょう。しかし砥石で加工するとなれば、多くの場合は研削盤そのものの導入が前提になり、装置を含めた大きな設備投資が必要になります。遊離砥粒のラップ盤やポリッシュ盤で現在の生産を回しているお客様にとって、それは簡単に踏み出せる一歩ではありません。
シート状の製品であれば、定盤やスラリー経路を清掃したうえで貼り付けるだけで、固定砥粒方式を試すことができます。スラリーの調合や供給、管理の手間が減り、うまくいかなければ元の方式に戻すこともできる。この「試しやすさ」が、現場にとっては何より大きいと感じています。
もう一つ見逃せないのは、加工の再現性です。遊離砥粒方式では、スラリーの濃度や供給量、定盤上での砥粒の分布が加工結果を左右し、その管理には経験が要ります。砥粒が最初からシート上に固定されていれば、少なくとも砥粒の供給に起因するばらつきは小さくなります。もちろん、使い込むにつれて砥粒の摩耗や目詰まりで切れ味は落ちていくので、交換やドレッシングの基準を決めておくことは欠かせません。
求められる精度は用途によって違う
研磨というと、どうしてもナノメートル単位の平坦度や面粗さが話題の中心になります。半導体の精密研磨では、CMPやナノダイヤモンドを用いた仕上げが重要であり続けるでしょうし、そこでは砥粒の粒度分布や分散性、化学作用との組み合わせまで含めた高度な設計が求められます。
一方で、世の中の研磨のすべてがその水準を必要としているわけではありません。一定の用途では、到達精度よりも、削りやすさ、交換のしやすさ、作業者による差の出にくさ、廃液の少なさといった「使い勝手」が評価の軸になります。こうした用途にまで最先端の精密研磨と同じ考え方を当てはめると、道具が過剰になり、コストと手間ばかりが増えてしまいます。用途に合った精度の道具を選ぶことも、研磨の技術の一部だと私は思っています。
試料片研磨はその代表例
その典型が、試料片研磨、いわゆるメタログラフィーです。金属組織や断面を観察するための試料作りでは、観察に支障のない面が安定して得られることが重要で、工程の段取りや消耗品の交換のしやすさが作業効率に直結します。実際、この分野ではダイヤモンドを樹脂ボンドやメタルボンドで固着した研削ディスクが広く使われており、粘着式や磁石式の裏面で素早く交換できることが利点として紹介されています。

ただし、何にでも向くわけではありません。メタルボンドは超硬合金や硬質セラミックスのような非常に硬い材料に向き、樹脂ボンドは対応できる材料の幅が広いと解説されています。また、アルミニウムや銅合金のような比較的軟らかい金属など、炭化ケイ素の研磨紙で十分に削れる材料では、研磨紙のほうが経済的な場合もあります。固定砥粒のシートが特に力を発揮するのは、セラミックスや超硬合金のように硬く、従来の研磨紙では効率が上がりにくい材料です。硬い材料ほど、固定砥粒であることの意味が大きくなるわけです。
粗い領域の固定砥粒が、もう一度見直される理由
研磨フィルムのような精密仕上げ向けの製品に長く関わってきた立場から見ても、それより粗い領域を担うシート状の固定砥粒製品は、まさにこうした用途でこそ持ち味が生きる製品だと考えています。最先端の精密研磨が注目を集める一方で、既存の装置資産を活かしながら、手軽に、安定して、そこそこの精度で削りたいという需要は確実に存在します。
大切なのは、精度の高さだけで製品を序列づけるのではなく、お客様が持っている装置、求めている品質、許容できる手間を見て、最適な道具を組み合わせることです。シート状の固定砥粒製品は、その選択肢の中で、もっと評価されてよい存在だと私は思います。
記事No,576
