みなさん、「カーボナイト」という高精度やすりをご存じでしょうか?この製品は、Mipox呉ベースで生産している技能五輪向けの高精度やすりになります。 優れた切削性能と切削粉の剥離性を兼ね備え、技能五輪3連覇を果たしたチームも愛用している製品です。
しかし、カーボナイトを購入・使用できる場所は限られており、なかなか世に知られていないため製品の特徴や開発経緯について広く知っていただくためにご紹介いたします。

目次

  1. 技能五輪とは
  2. カーボナイトの特徴
  3. カーボナイトの誕生秘話
    1. カーボナイトの開発経緯
    2. カーボナイト完成に至るまでの道のり
  4. さいごに

技能五輪とは

まずは、『技能五輪とは何か』についてご説明します。
技能五輪とは、国内の青年技能者(原則23歳以下)を対象に、技能競技を通じ、青年技能者に努力目標を与えるとともに、技能に身近に触れる機会を提供するなど、広く国民一般に対して技能の重要性および必要性をアピールし、技能尊重機運の醸成に資することを目的として実施する大会になります。競技職種は、機械系(9職種)、金属系(5職種)、建設・建築系(10職種)、電子技術系(5職種)、情報通信系(3職種)、サービス・ファッション系(10職種)の計42職種となります。 今回、ご紹介する「カーボナイト」は機械系職種の抜き型や機械組立てで使用されています。
※ 抜き型は第57回=2019年=まで実績がありましたが、第58回=2020年=において、抜き型職種 → プラスチック金型へレギュレーションされ、カーボナイトの使用がなくなっています。

カーボナイトの特徴

カーボナイトは従来のやすりや海外のやすりと比べて切削性能が高く、切削時のかしり(目詰まりによるワークへのキズ)や当たりムラ(中窪、ベコ、びびり)も少なく、切削後の面粗さがキレイという特徴があります。

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       (従来やすりの切削状態)
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       (カーボナイトの切削状態)

左の従来やすりでは真ん中の当たりムラが発生し、切削後でも光明丹が残っていますが右のカーボナイトではキレイに光明丹が削れていることが分かります。 

なぜこうした特徴があるのでしょうか。 次の理由が挙げられます。
・ 平行精度の高い材料を使用している

 
(カーボナイトに使用している白地材料)

平行精度の高い材料を使用することで目立て加工を行った際、左右真ん中と均等にやすりの刃が起き上がり、切削時の面粗さがキレイに仕上がります。

・ やすりの刃形状が点でなく、線になるように目立て加工することで接触域を広げている

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  (画像=従来のやすり刃)
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  (画像=カーボナイトのやすり刃)

やすり刃形状を従来の点形状でなく、線形状にすることで切削の接触域が大きく切削性が高くなります。かつ、線形状にすることで切削後の面もキレイに仕上がります。

  • 目立ておよび焼入れ後に発生する反り(長さ方向)や歪み(幅方向)の修正 やすりの反りや歪みの両方を修正することで切削時に均等に当たり、ムラなく切削することが可能です。
  • めっき加工前にやすり刃を鋭利にするために特殊な前処理 こちらの前処理ではやすり刃を目立て加工した時よりも鋭利にする処理を行っており、切削性が向上しています。
  • 特殊なめっき加工をすることで摩擦抵抗が低く、切削粉の剥離性向上
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(画像=従来やすりの切削後)
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(画像=カーボナイトの切削後)

特殊なめっき加工を行うことで切削摺動時に抵抗が少なく、かつ切削粉の剥離性も向上していることからやすり刃の間に目詰まりが起きにくく、かしりの問題を抑制できています。

カーボナイトの誕生秘話

カーボナイトの開発経緯

2011年初頭に一般的な鉄工やすりよりも「切削性に優れた目詰まりしにくいやすりの開発」というコンセプトで、カーボナイトの前身であるハイブリッドスーパーファイルの開発プロジェクトがスタートしました。コンセプトである切削性に優れた目詰まりしにくいやすりとは何を目指すのか?について説明すると、切削性では硬度HRC60以上の金属を削れることを意図しており、目詰まりしないためにやすり刃表面に特殊なめっき処理を施すことで作業性の向上を目指した特徴のあるやすりとなります。

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(ハイブリッドスーパーファイル)

ハイブリッドスーパーファイルは目立て条件を見直し刃先の食い込み力を向上させ、特殊な前処理を施すことで従来のやすりより切削力を向上させました。更に特殊なめっきを施すことで目詰まり防止や刃先の耐久力向上も目指し、改良が加えられました。 完成したハイブリッドスーパーファイルを2011年10月の名古屋で行われた展示会に出展し、来場者の反応を確認しました。この時の展示会ではハイテク機械、各社の様々な新製品が多く出展されている中で手工具という珍しい製品のため多くの来客があり、その中で某大手メーカーD社との出会いがきっかけとなり、ハイブリッドスーパーファイルがカーボナイトに変わる新たな開発が始まります。

カーボナイト完成に至るまでの道のり

2011年に完成して展示会に出展した「ハイブリッドスーパーファイル」は販売までには至りませんでしたが、そこで出会ったD社とのやり取りが続き、2012年5月に関係の深まったD社の技能五輪グループ技術開発担当者が工場に訪れ、前年開発したハイブリッドスーパーファイルよりも更に高精度なやすりの開発が始まりました。  高精度なやすりの追求は容易なことではなく、やすりの目数の変更や技能五輪では使わないやすり側面の刃をなくすなどD社の選手に実際に使用していただきながら、ともに高精度なやすりの開発を行ってきました。 2013年4月には高精度やすりのベースとなる仕様が決まったところで当時の工場長と職長は定年退職し、次の工場長へと開発案件は引き継がれました。 

次の工場長の代では高精度やすりの開発のために次の点に着目して開発を進めてきました。

  • やすりの刃を成形するためのタガネの「目立て刃」
  • 切削力向上に繋がるやすりの「刃形状」
  • 切削精度を上げるために必要な白地材料の「平行精度」
  • 目立て加工や焼入れ後に生じる反りや歪みの「歪精度」

D社や機械設備開発会社の協力のもと、従来やすりとは全く異なる追求がされてきました。D社からよく削れる刃形状の理想的な設計や機械治具の提供サポートもあり、ハイブリッドスーパーファイルは高精度やすりに進歩していきました。これらの集大成が2016年に完成し、ハイブリッドスーパーファイルから新たな製品名で上市したカーボナイトとなります。

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同年に開催された技能五輪では、抜き型職種においてD社の選手が優秀な成績を収める結果となりました。選手からも非常に好評で、D社以外の大会参加企業からも当社「カーボナイト」について引き合いがありました(それが今後のT社とのつながりになります)。
D社とは抜き型職種のレギュレーションがあった2019年までカーボナイトをご使用いただき、2020年以降は関係がなくなりましたが、やすり技術の向上に多大な貢献をいただきました。

さいごに

T社は機械組立て職種に参加しており、以前の抜き型職種よりもより一層精度要求が高くなり、T社とともに何度も改善を繰り返してきました。現在の仕様のカーボナイトを使用いただいているT社は技能五輪大会で現在3連覇を達成しており、カーボナイトという製品に絶大な信頼を持っていただいております。

このように、たかがやすりと言えどさまざまな付加価値が乗せてあり、非常に高品質な製品であることをイメージしていただけたかと思います。独自のこだわりを追求した結果、やすりという工具としては過剰品質にも思えますが、技能五輪という特殊な場面での使用においてはちょっとしたミスが致命的となる場合があります。そのため、使用する工具には絶対の信頼感が求められるのです。
良い人材を育て、良い結果を残すためには、やはり良い工具も必要とされます。カーボナイトは技能五輪大会のみならず、大会に出場する選手を育てる教育機関や工業高等専門学校の機械製作実習などにおいても有効だと考えています。
Mipox呉ベースでは持てる技術を最大限に引き出し、お客様のニーズを真摯に受け止め成功に導く製品作りを行ってまいります。