2026年5月、代々木上原にて ゴールデンウィークの連休中、妻とともに代々木上原へ足を運びました。 目的は「Pearl [re] Pearl」のポップアップストアです。 サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を掲げるサイクラーズ株式会社が、代々木上原の複合スペース(tefu)yoyogi ueharaにおいて3日間限定で開催していたイベントです。
訪問前は「気になるイベントがある」という程度の認識でしたが、実際に足を運んでみると、製造業の取締役という立場から、予想をはるかに超える気づきを得ることができました。
目次
「廃材をリメイクした家具」の、圧倒的な説得力
会場に入ると、コンクリートの打ちっぱなしの床に、個性豊かな椅子が点在しています。
オレンジ色にペイントされたX脚のチェア。 白いクッションを張った木製のアームチェア。 エントランス外には鮮やかなイエローのプラスチックチェア。
一見すると洗練されたインテリアショップのように映りますが、これらはすべて廃材や中古家具を再生・リメイクしたものです。
手がけているのは enloop®(エンループ) というブランドです。 企業から排出される廃材を活用し、リメイク家具・雑貨の製作やデザイン提案を行っています。 今回のポップアップは、enloopの2周年を記念した展示販売も兼ねた催しでした。
「廃棄されるはずだったもの」が、これほどの存在感と美しさを纏えるのか——。
知識として理解しているつもりでいたことが、実際に目の前に並ぶ家具を見渡した瞬間に、はっきりと腑に落ちました。
enloop®(エンループ)とは
企業から排出される廃材を活用し、リメイク家具・雑貨の製作やデザイン提案を行うブランド。今回のポップアップはenloopの2周年を記念した展示販売も兼ねた催しでした。
展示テーブルの「素材」が語るもの
会場中央には、大きなテーブルがいくつか配置されていました。 石、木片、大理石の端材、木箱、香のセット、小さな彫刻。黒い馬の置物。白いクラシックな花瓶。ラタン素材の背の高い花器——。
説明書きを読んで気づいたのですが、これらは単なるセレクト雑貨ではなく、各企業から提供された「廃材・余剰素材」そのものや、それらを原料として生まれたプロダクトです。
「素材をそのまま見せる」という展示の潔さが、かえってメッセージを鮮明に伝えていました。廃材とは「隠すべきもの」ではなく、「堂々と見せられるもの」である——そのことを、空間全体が体現していました。
そこに、Mipoxの名前がありました
会場の壁沿いには、ハンガーラックにパンフレットが吊り下げられていました。 女子美術大学の学生プロジェクト、間伐材の再生プロジェクト、廃材を活用した展示販売の事例……一枚一枚めくっていくと、見慣れたロゴが目に入りました。
マイポックス株式会社(Mipox)。私が取締役を務める会社です。
パンフレットのタイトルは「廃棄予定の研磨材・反射材を日々の制作に活用」。 研磨材および研磨装置の製造販売を行うマイポックスでは、製造工程において検査基準を満たさなかった研磨材や、端部加工で生じる余剰材料が発生します。品質上の欠陥ではなく、社内基準によってやむなくロスとなってしまう素材です。 それをenloopが引き取り、リメイク家具の制作に活用してくださっていたことが紹介されていました。 さらに、2025年夏には女子美術大学のインターン生がMipoxの工場を訪問し、製造現場と環境配慮への取り組みについて理解を深めたエピソードも掲載されていました。 率直に申し上げて、大変嬉しく感じました。日々向き合っている製造現場から生まれる「ロス」が、全く異なるフィールドで、こうした形で紹介されている——その事実には、素直に感慨を覚えました。妻に「これ、うちの会社だよ」と伝えると、驚いた様子でした。
製造業とサーキュラーエコノミーの本質的な関係
製造業は、宿命的に「廃材」を生み出す産業です。
加工をすれば端材が出ます。 検査をすれば不合格品が出ます。 生産調整をすれば余剰在庫が生じます。
それ自体は避けられない現実です。 重要なのは、その先をどのように設計するかです。
本質的な問い
「廃棄コストをいかに削減するか」という視点だけでは、真のサーキュラーエコノミーには至りません。「この素材は、誰かにとっての価値になり得るか」という問いを持ち続けることができるかどうか——そこに本質があると考えます。
enloopのアプローチを拝見して感じたのは、これは特別な技術や大規模な設備投資の話ではないということです。 素材を「見る目」と、異なる業界をつなぐ「意志」があれば、今日から始められることです。
マイポックスの研磨材が美術大学の学生の制作に活用され、その成果がこうした展示・販売の場として結実する——このサイクルの中に、製造業のメーカーも当事者として参加できる。 今回の展示は、そのことを具体的かつ鮮明に示してくれました。
リサイクルウレタンで作られたペットベッドの話
最後に、もう一点印象に残った展示をご紹介します。 コアラペットベッド「KUDDLE」というプロダクトです。使用済みマットレスを粉砕し、koalaマットレスの未使用フォームと組み合わせて再形成した詰め物を使用した、ペット用ベッドです。 不要となったウレタン素材が、ペットがゆったりとくつろぐための上質な空間へと生まれ変わっています。
KUDDLE の仕様ポイント
6cmのネックサポートフォーム / すべり止め加工 / 取り外して洗えるトッパー。廃材を使用するからこそ、より深く考え抜かれたプロダクトに仕上がっています。
機能面においても妥協は一切なく、細部まで丁寧に設計されていました。 廃材を使用するがゆえに品質を妥協するのではなく、廃材を使用するからこそより深く考え抜かれたプロダクトになっている——そう感じました。
まとめ——「概念」を「体験」へと変える場の力
「サーキュラーエコノミー」という言葉は、今日のビジネスシーンにおいて広く使われるようになりました。しかし、言葉だけでは人の行動はなかなか変わりません。
今回のイベントの価値は、リメイク家具に実際に触れ、廃材から生まれた小物を手に取り、素材そのものを目で見て確認できる——そうした体験を通じて、循環の意味を「実感」できる場が丁寧に設計されていたことにあると思います。
製造業に携わる者として、今回目にしたものは大きな刺激となりました。 廃材を「処理すべきコスト」として捉えるのではなく、「可能性を持つ素材」として再定義する視点。それは製造現場の内側だけにいては生まれにくい発想であり、こうした場に足を運ぶことで初めて開かれる視野だと実感しています。
ゴールデンウィークの一日を、大変有意義に過ごすことができました。
