前回は、塗装ハンガーの剥離工程からシンナー・薬液を排除するレーザー剥離装置についてお伝えしました。今回は、このシリーズ三本柱の最終回——SLAC(ソルベントレス/Solventless Abrasive Coating)研磨材。
ガスが止まればIH粉体塗装で焼ける。シンナーが手に入らなければレーザーで剥がせる。では、研磨工程はどうか。溶剤が高騰・逼迫する局面で、研磨という工程は逃げ場を持っているのか——そこを、今回は正面から考えます。
研磨工程における「溶剤依存」とは何か
半導体ウェーハの研磨から自動車のボディ研磨、金属部品の仕上げ研磨まで、研磨工程において溶剤の存在は当たり前のものとして扱われてきました。研磨後の洗浄工程では有機溶剤系の洗浄剤が使われ、スラリーには分散媒として有機溶剤が配合されているケースも少なくありません。
しかし冷静に考えると、「研磨そのもの」に溶剤が必要かと問われれば、そうではない場面も多いはずです。ドライ加工が成立する素材・形状であれば、砥粒と基材だけで十分なケースがあります。スラリーも、純水ベースや低VOC設計に切り替えられるものがあります。
今回の原油クライシスにより、これらの溶剤の価格は軒並み上昇しています。ナフサを原料とする有機溶剤全般が影響を受けており、調達先の確保自体が難しくなっているケースも出てきました。こうした状況下で、「研磨工程から溶剤をどれだけ遠ざけられるか」を改めて問い直すことは、単なるコスト削減を超えた意味を持ちます。
溶剤レス研磨の三つのアプローチ
マイポックスが創業以来積み上げてきた研磨材開発の蓄積は、結果として「溶剤に依存しない研磨」の選択肢を複数生み出してきました。大きく三つのアプローチに整理できます。
これら三つは排他的な選択肢ではなく、素材・用途・精度要件に応じて組み合わせて使うものです。「まずドライ加工を試す」「洗浄剤だけ低VOC品に切り替える」という段階的な取り組みも、現実的な入口になります。
それぞれの特長と使いどころ
「溶剤を減らす」はコスト削減だけではない
「溶剤を減らしたい」という動機は、これまでコスト削減やVOC規制対応として語られてきました。しかし今回の原油クライシスを経て、もう一つの意味が鮮明になっています。
ホルムズ海峡の地政学リスクが顕在化したとき、ナフサを原料とする有機溶剤の調達は真っ先に影響を受けました。研磨工程が溶剤への依存度を下げておけば、「溶剤が手に入らなくても、研磨ラインは回せる」という選択肢が手元に残ります。
塗装工程でのIH粉体塗装(ガス・溶剤レス)、剥離工程でのレーザー装置(薬液・シンナーフリー)、そして研磨工程でのSLAC研磨材・研磨フィルム(溶剤レス)——この三本柱が揃ったとき、製造ラインの石油依存度は構造的に下がります。
- 原油価格変動によるコスト上昇リスクを低減
- 溶剤調達の供給途絶リスクからラインを守る
- VOC規制・消防規制の対象外となり、規制対応コストが減少
- 作業者の有機溶剤ばく露リスクを低減
- 廃液処理コスト・廃棄物量の削減
- CO₂排出削減・脱炭素目標への貢献
「溶剤を減らす」というのは、単にコストの最適化ではなく、ものづくりの足腰を強くする設計です。今回の原油クライシスは、その設計の意義を改めて可視化してくれました。
まとめ
SLAC研磨材編では、研磨工程における溶剤依存の構造を整理し、マイポックスが持つ三つの溶剤レスアプローチ——溶剤レス研磨材(SLAC)・低VOCスラリー洗浄剤・研磨フィルム×ドライ加工——をご紹介しました。
「いますぐ全面切り替え」は難しくても、「洗浄剤だけ低VOC品に」「一工程だけドライ加工を試す」という入口は作れます。その一歩が、長期的なサプライチェーンの強靭化につながります。
このシリーズ(IH粉体塗装・レーザー剥離・SLAC研磨材)を通じてお伝えしてきた「石油依存を下げるものづくり」の三本柱が、皆様の製造現場を見直すきっかけになれば幸いです。個別のご相談・サンプルワーク・技術的なご質問は、お気軽にお問い合わせください。
