目次

  1. 同じ粒度なのに、なぜ価格が数倍違うのか
  2. 狙ったサイズだけを作ることは、原理的にできない
  3. 副産物が捌けるか否か――単結晶と多結晶の決定的な差
  4. 需要が増えたのに値上げ――ボリュームディスカウントが効かない理由
  5. ナノサイズという膠着――売りたいのに、売れない
  6. バイヤーに問われるのは、価格の内訳を想像する力

同じ粒度なのに、なぜ価格が数倍違うのか

私は日々、研磨材としてのダイヤモンド砥粒を扱う中で、お客様から「同じ粒度なのに、なぜこんなに価格差があるのですか」という質問を頻繁にいただきます。多くの場合、その説明は「細かい粒度を作るのは難しいから」という一言で片付けられてしまいます。工程が長いのだから高い、という理屈は分かりやすいものです。ですが実際のところ、価格に乗っているのはその粉を作る手間だけではありません。その粉と一緒に生まれてしまった、売り先のないサイズの分も乗っているのです。

分級という工程の宿命と、単結晶・多結晶それぞれの需要構造をたどっていくと、普通の購買感覚では説明のつかない値動き――量が増えたのに値上がりする――の理由まで見えてきます。

粒子で描くベルカーブ分布

狙ったサイズだけを作ることは、原理的にできない

単結晶ダイヤモンド砥粒の製造工程は、100〜500ミクロン程度の粗い原料を、ボールミルや気流粉砕によって0〜80ミクロン程度の微粉へと砕くところから始まります。ここから篩分け・水力沈降・遠心分離・レーザー粒度分析といった手法を組み合わせ、目的の粒度に絞り込む「分級」に入ります。マイクロナイザーと呼ばれる分級専業メーカーの多くは、1〜40ミクロン程度にセミ分級された原料を調達し、自社で精密分級をかける二段構えを取っています。

1原料100〜500ミクロン程度の粗い原料
2粉砕ボールミル・気流粉砕で0〜80ミクロン程度の微粉に
3セミ分級1〜40ミクロン程度に絞り込み
4精密分級目的の粒度を取り出す

ちなみに原料側の供給は中国に強く依存しており、米国地質調査所(USGS)の2026年の資料では、2025年の世界の合成工業用ダイヤモンド生産量は150億カラット超で、中国が生産量で世界トップとされています。

➤参考:USGS「Mineral Commodity Summaries 2026 – Diamond (Industrial)」(英語・PDF)

狙う粒度が細かくなるほど工程は段数を増し、時間も設備も人の技量も必要になります。そしてこの分級工程には、もうひとつ、避けようのない宿命があります。

分級の宿命狙った粒度を取り出せば、それ以外の粒度も必ず同時に生まれる。人気のサイズだけを選んで作ることはできません。

副産物が捌けるか否か――単結晶と多結晶の決定的な差

生まれてしまった他の粒度に買い手がつけば、何も問題にはなりません。つかなければ、それはデッドストックとして倉庫に残り、そのコストは結局、売れるサイズの価格に転嫁されます。ここで効いてくるのが、素材による需要構造の違いです。

単結晶電着製品や砥石・研磨ホイールから、石材の研磨や彫刻、自動車ガラス、セラミックス、超硬合金、磁性材料の加工まで用途が広く、ナノサイズからメッシュサイズまであらゆる粒度帯に需要があります。何が出てきてもどこかに行き先があります。
多結晶粒度コントロールが効きにくいうえに、需要が3ミクロン前後に強く集中します。欲しいサイズだけを狙い撃ちできず、3ミクロン以外の粒度には単結晶ほどの受け皿がありません。

多結晶がなぜ粒度を作り分けにくいのかは製法に関わる話ですが、現場から見れば結果は単純で、欲しいサイズだけを狙い撃ちできないという一点に尽きます。3ミクロンを狙って分級すれば当然ほかの粒度も出ますが、それらには単結晶ほどの受け皿がありません。つまり多結晶3ミクロンの価格には、売れ残る兄弟たちの分が最初から織り込まれているのです。

需要が増えたのに値上げ――ボリュームディスカウントが効かない理由

たとえばLEDサファイアの加工やSiCの研磨では、多結晶の3ミクロンに需要が集中します。私が経験した範囲では、こうした加工需要が伸びた局面で、値下げどころか値上げが実行されたことがありました。量が増えれば単価は下がるという購買の常識からすれば、これは理解しがたい動きです。実際、当時は「なぜ数量が増えているのに上がるのか」という戸惑いの声をあちこちで聞きました。

ですが、構造を知れば腑に落ちます。3ミクロンの供給を増やすということは、同時に売り先のない他粒度の山を増やすということでもあるからです。増産がそのまま在庫リスクの増産になる以上、数量がまとまっても価格は下がりません。供給責任を負う側が、むしろ価格を上げざるを得ない局面すら出てきます。ボリュームディスカウントという発想が、そもそも成り立ちにくい商品なのです。

ナノサイズという膠着――売りたいのに、売れない

そして、余り物として最も切実なのが、需要の薄いナノサイズです。たとえば18ナノメートルの粒子をそれ単独で分級しようとすれば工程は数週間に及び、ミクロンサイズの砥粒とは桁違いの値がつくこともあると聞きます。工程の長さという合理性は、たしかにあります。ところが実態として、その多くは他の粒度を狙った分級から出てきた副産物であり、工場によってはすでに帳簿から落としているようなケースすらあるといいます。

売り手は在庫を抱えており、本音では安くてもいいから売り切りたい。しかし需要が薄い。買い手の側は、価格が高いから採用量を増やせない。売りたい側と使いたい側の双方が存在しているのに、価格と需要が互いを縛り合って動かないのです。

ナノサイズの膠着高いから使われず、使われないから在庫が減らない。ナノサイズは、この膠着の中に置かれています。

今後の半導体関連の微細研磨においては、ナノサイズダイヤの需要が大きくなると私は考えています。その需要増を阻んでいる原因の一つが価格だとも思っており、今回ご紹介した背景事情を踏まえると、戦略的な取り組みが可能なのではないかと考えています。

バイヤーに問われるのは、価格の内訳を想像する力

見積もりの数字を前にしたとき、その価格が何を含んでいるのかを考えてみたいところです。分級工程が長いという価格の合理性は本当です。ですが同時に、そこには売れ残るサイズの分が乗っており、売り手はその在庫を捌きたいと思っています。量をまとめても下がらない見積もりに出会ったなら、それは相手の副産物構造を映している可能性が高いでしょう。逆にナノ領域のように在庫が積み上がっている領域では、買い手が動くこと自体に価値が生まれる余地があります。

スペックと価格表を突き合わせるだけでなく、その粉が相手の工場でどう生まれ、どのサイズが倉庫に積み上がっているのかまで読む。これからの調達には、そこまでの解像度が求められていくはずです。


記事No,555