結論から言います
2026年4月7日、マイポックスが福岡県に企業版ふるさと納税で1000万円を寄付しました。寄付先は「福岡超集積半導体ソリューションセンター」(福岡県糸島市)。この発表セレモニーに同席した後、施設を実際に見学しました。
「なぜ研磨材メーカーが半導体研究施設に寄付するのか」——その答えは、現場を自分の目で見ることで、より鮮明になりました。
寄付の経緯と背景
日本経済新聞にも報じられたこの寄付は、みずほ銀行・西日本シティ銀行・九州経済調査協会で構成するグループの紹介で実現しました。マイポックスはこれまで同施設を直接利用したことはなかったものの、取引先であるみずほ銀行を中心とするネットワークを通じて縁がつながった形です。
渡邉淳社長は会見の場で「施設を使う企業が我々の材料を必要とする可能性がある」と述べています。これは単なる社会貢献ではなく、半導体後工程の研究開発コミュニティとの接点を作るという、事業上の意図も含んだ判断です。
製造業の取締役として正直に言えば、この判断は非常に理にかなっていると思います。
マイポックスと半導体後工程の接点
マイポックスは精密研磨フィルム・研磨材料を主力とする上場メーカーです。半導体分野においては、ウエハーの薄化研磨や平坦化工程(CMP:化学機械研磨)向けの材料供給という形で、後工程と深く結びついています。
さらに見逃せないのが、受託研磨加工事業とのシナジーです。マイポックスは材料の供給にとどまらず、精密部品の受託研磨加工という実加工の領域も手がけています。半導体後工程に特化した研究機関が集まるこの施設には、試作段階での加工ニーズが常に発生します。研磨材料の提供から実際の加工受託まで、一気通貫で対応できるマイポックスの強みが活きる場面が、ここには確かに存在します。
今回の寄付先となった福岡超集積半導体ソリューションセンターは、三次元実装・チップレット集積という最先端領域の研究開発支援機関です。そこで行われる工程の中には、必然的に研磨・平坦化が組み込まれています。施設見学中に壁に掲示されていた「ポスト形成プロセスまとめ」というポスターには、Cu-Post形成においてCMP工程が品質の分岐点になることが明示されていました。
つまり、この施設が高度化するほど、研磨材料と研磨加工技術の重要性が増すという構造があります。寄付を通じて研究コミュニティとの関係を作ることは、将来の材料採用・加工受託につながる長期的な布石でもあります。
セレモニーの場で感じたこと
福岡県庁で行われた発表の場には、服部誠太郎知事をはじめとした行政側と、マイポックス渡邉社長が並びました。 福岡県がこの施設にかける本気度は、発言の端々から伝わってきます。県は国が掲げる「2030年に半導体国内生産売上高を現状の3倍・15兆円」という目標の実現に向け、後工程の研究開発拠点としてこのセンターを位置づけています。企業版ふるさと納税や民間からのクラウドファンディングを活用して設備更新費を募るという手法も、行政として積極的に民間資本を引き込む姿勢の表れです。 「企業、大学、関係機関との連携を一層強化し、このセンターから新たな技術、新たな製品を生み出し、世界に羽ばたく企業を目指していきたい」という知事の言葉には、掛け声ではなく実行の気配がありました。
セレモニー後、現場を歩いた
発表の後、センターへ移動し施設見学を行いました。糸島市東の前原インターチェンジを降りてすぐという立地にある研究開発棟。入口から漂う空気の質が、一般の製造工場とは異なります。
このセンターの立ち位置を理解する
見学前に整理しておくべき背景があります。
2025年8月25日、2011年開所の「三次元半導体研究センター」と「社会システム実証センター」を統合し、現在の「福岡超集積半導体ソリューションセンター」が発足しました。三次元実装・チップレット集積という次世代技術に特化した、設計・試作・評価・実証をワンストップで提供できる国内唯一の公的支援機関です。
2011年の設立以来、約270社・延べ4,400件の支援実績があり、スマートフォン・サーバー・自動車向け半導体の開発を下支えしてきた実績もあります。世界的な大手メーカーからも評価を得ているという点は、現場に立って初めてその重さが理解できる数字です。
クリーンルームの充実度が圧巻
研究開発棟には清浄度クラス1000のクリーンルームが7室あり、うち2室は紫外線をカットするイエロールームです。Si極薄研磨・TSV加工・配線形成という主要工程に対応し、半導体テスター・電子顕微鏡・X線透視などの解析設備も完備されています。
見学中に特に印象的だった装置を2台挙げます。
ウエハーカップ式銅めっき装置(CUP-PLATER Cu) 日本エレガルバニ製。8インチウエハー対応で、研究段階から量産規模まで対応できる汎用設計が特徴。タッチパネル操作で全自動制御が可能で、現場実用性の高さが伝わってきます。
縮小投影型露光装置(Wafer Stepper) ニコン製 NSR-2205i9C。解像度0.45μm以下、露光フィールド22×22mm対応。MEMS・エンコーダー・マイクロレンズなど半導体以外の精密部品にも活用されており、研磨フィルムを扱うマイポックスとしても接点が見えてくる装置です。
4つの主要技術領域
センターが提供する技術支援の柱は以下の通りです。 ① 高密度配線基板実装技術——CoWoS・SiインターポーザなどHPC向けAdvanced Packagingに対応 ② TSVを用いたSiインターポーザ一貫製造——TSV SliP 5 Stackの積層構造対応、TEGによるプロセス評価まで一貫 ③ 測定・評価サービス——MAX 120GHzまでの高周波評価が可能なプローバー等を完備 ④ ファンアウト型パッケージ(FO-WLP/FO-PLP)——Panel-level・Die Embedded Moduleなど最新パッケージに対応
SIPOSコンソーシアムという仕組み
センターにはC-SIPOS(シポス)と呼ばれるコンソーシアム制度があります。企業・大学・研究機関が参画し、最先端設備を共用しながら研究開発を進める枠組みです。
マイポックスが今回の寄付を通じてこのコミュニティと接点を持つことは、将来的な共同研究・材料評価・加工受託への入口になり得ます。研磨材料の供給という川上だけでなく、受託研磨加工という実加工の領域まで持つマイポックスにとって、このコンソーシアムは事業の幅全体で接点が生まれる場です。単なる寄付ではなく、産学連携エコシステムへの参加宣言と捉えることができます。
現場を歩いた人間の率直な所感
クリーンルームに入ったとき、量産工場とは異なる空気の重みを感じました。研究開発フェーズ特有の「まだ答えが出ていない工程」が空間に宿っている感覚。担当者の説明には技術的な誇りがあり、「ここでしかできないことがある」という自負が伝わってきました。 経営判断の精度は「現場の解像度」に比例すると思っています。マイポックスが寄付を決めた判断の意味を、数字と言葉だけでなく現場で確かめられたことは、私にとって大きな収穫でした。
まとめ
マイポックスによる1000万円の企業版ふるさと納税寄付は、単なるCSRではありません。半導体後工程という成長領域の研究コミュニティに接点を作り、将来の材料採用・加工受託を見据えた戦略的な判断です。
●国内唯一の後工程公的支援機関に接点を作った ●CMP・研磨工程は後工程高度化のカギ——マイポックスの材料と加工技術が必要とされる文脈がある ●受託研磨加工事業との親和性が高く、試作段階からの関与が期待できる ●現場を見なければわからないことが、ここには確かにある 半導体サプライチェーンに関わる製造業・素材メーカーの方には、一度足を運ばれることをおすすめします。
公益財団法人 福岡県産業・科学技術振興財団 福岡超集積半導体ソリューションセンター 所在地:〒819-1122 福岡県糸島市東1963-4 ホームページ:https://jiss.ist.or.jp/
記事No,387
