目次

  1. 1. そもそも「MEMS(メムス)」とは?──チップに宿るミクロの手足
  2. 2. シリコンの限界と、次世代材料「SiC」の可能性
  3. 3. SiC MEMS製造に立ちはだかる「割れ」の壁
  4. 4. 課題を解決する、マイポックスの「エッジ研磨技術」
  5. まとめ:製造プロセスの革新が、次世代デバイスの可能性を広げる

あらゆる電子機器が小型化・スマート化する現代において、私たちの生活を支えているのが「MEMS」と呼ばれる超小型センサー技術です。今、このMEMSの世界に大きなパラダイムシフトが起きようとしています。それが、従来のシリコン(Si)に代わり、最強の半導体材料と呼ばれる「SiC(炭化ケイ素)」を採用した「SiC MEMS」の開発です。

半導体チップの使用イメージ

本記事では、そもそもMEMSとは何かという基礎から、なぜSiCが必要とされるのか、そしてその製造に立ちはだかる最大の壁を、日本の研磨技術(マイポックス)がどのように解決したのかを解説します。

1. そもそも「MEMS(メムス)」とは?──チップに宿るミクロの手足

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems/微小電気機械システム)は、製品名ではなく「技術のカテゴリ」を指す言葉です。

一言で言えば、「脳(計算を行う回路)」と「手足(バネやクシの歯のように動くパーツ)」を、一つの半導体チップの中に組み込む技術のことです。従来の半導体チップは計算・記憶を行う「脳」の機能のみでしたが、MEMS技術によってチップの中に「目・耳・肌」に相当するセンサー機能を持たせることができるようになりました。

一般的な機械のようにネジや歯車を一つずつ組み立てるのではなく、半導体と同じ製法でウエハの上に「型紙」を使って一度に数万個分を印刷し、薬品で削り出す(エッチングする)ため、次のような特長があります。

圧倒的な低コスト 1個あたり数円〜数十円で大量生産が可能
超高速・省電力 軽量なパーツが瞬時に動作し、消費電力もわずか
高い耐衝撃性 軽量なため自重による衝撃で破損しにくい

スマートフォンの画面が傾きに合わせて回転するのも、車のエアバッグが一瞬で展開するのも、チップの中に組み込まれたミクロのMEMSバネが静電気の力で動作し、衝撃を検知しているためです。

2. シリコンの限界と、次世代材料「SiC」の可能性

現在、身の回りにあるMEMSのほとんどは「シリコン(Si)」で作られています。シリコンは結晶構造が美しく、繰り返し動作させても金属疲労が起きにくいという優れた特性を持っています。

しかしシリコン基板には「熱・薬品・圧力といった過酷な環境ストレスに弱い」という弱点があります。スマートフォンの内部であれば問題なく機能しますが、「自動車のエンジン内部」「宇宙空間」「地熱発電の地底深く(300〜600℃)」といった極限環境に置かれると、シリコンは損傷したり熱暴走を起こしたりしてしまいます。そこで注目されているのが、次世代パワー半導体材料としても知られる「SiC(炭化ケイ素)」です。

材料の変形しにくさ(剛性)を示す指標に「ヤング率」があります。数値が大きいほど、力を加えても形状が変化しにくい材料であることを意味します。

従来材料 シリコン(Si) 130〜188 GPa
次世代材料 炭化ケイ素(SiC) 約450 GPa(Siの約3倍)

バネのような可動部分を細く薄く設計しても、変形せずに高速かつ正確に動作します。さらに600℃以上の高温下でも安定して動作し、強酸性の環境でも劣化しにくい、優れた耐環境性を備えています。

SiCウェーハ

3. SiC MEMS製造に立ちはだかる「割れ」の壁

シリコンより優れた特性を持つSiCですが、なぜこれまで広く採用されてこなかったのでしょうか。理由は明確で、「硬度が高すぎて加工が極めて難しいから」です。

MEMSの製造工程の最終段階では、可動部分を宙に浮かせるために「仮の土台(犠牲層)」を薬品で溶かして取り除く「リリース」という工程があります。この際、本体のパーツがSiCであれば、薬品によるダメージを受けることなく土台だけを除去できます。

しかしSiCは、ダイヤモンドに次ぐクラスの硬さを持つ代表的な材料である一方、ガラスのように特定の方向からの衝撃に弱く、割れやすい(劈開性)という繊細な一面も持ち合わせています。高温での成膜や強力なプラズマによるエッチングなど、製造工程で大きな熱・物理的ストレスがかかると、ウエハの外周(エッジ)にある目に見えない微細なキズにストレスが集中し、高価なウエハが工程の途中で破損してしまうのです。

このウエハの破損リスクこそが、SiC MEMSの歩留まり(成功率)を悪化させる最大のボトルネックとなっていました。

4. 課題を解決する、マイポックスの「エッジ研磨技術」

このSiC MEMS製造における最大の課題を克服し、量産化への道を切り拓いたのが、日本の研磨技術を持つマイポックスの「エッジ研磨(面取り加工)技術」です。ウエハの縁を滑らかに整え、キズを取り除くことで、製造工程中に生じるストレスを分散させ、ウエハの破損を大幅に防ぐことができます。

従来の硬い砥石で削る方法では、加工時の衝撃によってSiCの結晶に微細なひずみ(新たな割れの原因)が生じてしまうという課題がありました。また、SiCの硬度の高さから、砥石自体が摩耗しやすいという問題もありました。これに対し、マイポックス独自のソリューションには、次の3つの強みがあります。

1 低ダメージ加工:柔軟な研磨フィルムで一定圧力をかけ、キズのない鏡面に仕上げる
2 複雑な形状への追従:割れやすいノッチ形状にも均一に沿って磨き上げる
3 従来比5倍の速度:独自装置とフィルムの組み合わせで高スループットを実現

POINT さらに、特別な薬品を使用せず「純水とフィルム」のみで加工するため、環境負荷が低く、加工後の洗浄プロセスも容易です。この点は、クリーンルーム内での製造が前提となるMEMSプロセスにおいて、大きなメリットとなっています。


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マイポックスデモ機によるエッジ研磨加工

まとめ:製造プロセスの革新が、次世代デバイスの可能性を広げる

「脳」と「手足」を併せ持つミクロな機械「MEMS」は、私たちの生活に欠かせない技術です。しかし従来のシリコン製では、過酷な環境ストレスに耐えられません。そこで、耐熱性・剛性に優れた「SiC」でMEMSを製造するニーズが高まっています。ただしSiCは加工中にエッジから割れやすいため、マイポックスの「エッジ研磨技術」でウエハを保護する必要があります。

「理想の次世代デバイス(SiC MEMS)」を構想だけで終わらせず、実際の量産ラインへと乗せるためには、こうした製造プロセスを支える精密な研磨技術が欠かせません。

EVのインバータ周辺、ジェットエンジンの内部、宇宙探査機、そして深地層のエネルギー開発など、これまで「熱すぎてセンサーを設置できなかった場所」のデータをリアルタイムに取得できる未来は、日本の高度な製造プロセスの革新によって、今まさに実現しようとしています。