HBMの積層化が進む中、ウェハの薄化に伴って微細な研削・研磨技術がますます求められています。この点については次回以降じっくり解説するとして、今回はその手前にある、より大きな地殻変動を取り上げます。研削・研磨(ラップ)・CMPという一連の平坦化プロセスの中で、真ん中のラップ工程をなくす、いわゆる「ラップレス」の流れが確実に広がっているのです。
目次
研削・研磨・CMPの流れの中で起きている変化
まず言葉を整理しておきましょう。研削はダイヤモンド砥石という固定砥粒を使った工程です。一方、研磨(ラップ)はGC(緑色炭化ケイ素)やダイヤモンドのスラリー、すなわち遊離砥粒を定盤上で転がして削る工程を指します。従来は、研削で形状と厚みを整え、ラップで研削のダメージと歪みを緩和し、最後にCMPで鏡面に仕上げるという分担が業界の常識でした。
しかし、いまこの常識が崩れつつあります。
砥石の進化がラップを不要にしつつある
背景にあるのは砥石製品の性能向上です。ビトリファイドボンドをはじめとする結合材技術が進歩し、微細な番手のダイヤモンドを使った仕上げ研削用砥石が登場しました。砥粒の突き出しを保ちながら目詰まりを抑えられるため、硬いワークでも安定した切れ味を維持できます。かつて研削の泣きどころだった加工変質層(ダメージ層)は大幅に浅くなり、後工程のCMPで十分に取り切れる水準まで改善しています。
砥石を数値で選び、条件を数値で管理できるようになったことで、ラップが担ってきた「歪み取り」の役割を、仕上げ研削とCMPの二人で分担できるようになってきたのです。
ラップ工程をなくすメリット——職人技と自動化の壁
では、なぜ各社はラップをなくしたがるのでしょうか。品質面のダメージ改善だけが理由ではありません。最大の理由は、ラップが今なお職人技の世界だからだと筆者は考えています。定盤の面性状の管理、スラリーの濃度や供給の加減、ワークの貼り方や荷重のかけ方——熟練の職人が長年のノウハウで微調整しながら成立させている工程であり、その技術継承は多くの現場で深刻な課題になっています。
さらにラップは自動化がしにくいという課題もあります。職人技と重なるちょっとした微調整が随所にあり、遊離砥粒を扱う装置構造上の制約もあって、完全自動化のハードルは高いままです。自動化ができなければ省人化もできません。一方の研削は、NC制御で除去量を数値管理でき、枚葉処理でトレーサビリティも取りやすいという特長があります。人手不足の時代に、どちらへ投資すべきかは自明に近いといえるでしょう。加えて見逃せないのが廃液の問題です。遊離砥粒のラップは大量のスラリー廃液を生み、その処理コストと環境負荷は年々重くなっています。固定砥粒の研削はこの点でも有利であり、環境規制が強まるほどラップレスの追い風になります。
「砥石からCMPへ」という構図と業界の分岐
今後の大きなトレンドは「砥石からCMPへ直結」だと筆者は見ています。ただし、すべての現場からラップが消えるわけではありません。
つまりラップは「量産の主工程」から「多品種・難加工の受け皿」へと役割を変えながら残っていく、という構図です。この構図は、ラップに関わる研磨材会社にとって重い意味を持ちます。全体の量が減っていく市場で従来通りの商売を続ければ、売上も利益もしりすぼみになりかねません。ビジネスの方向性と成長領域をよく見極め、付加価値を意識した舵取りが必要です。難加工向けの高機能スラリー、回収・再生といった循環サービス、あるいはCMP側への展開——量を追う商売から質を売る商売への転換が問われています。
日本の研削技術とこれから——私見
幸いなことに、日本にはディスコや東京精密といった世界トップクラスの研削関連企業があります。これらの会社のボンド・焼結技術は非常に高く、研削砥石の性能向上はまだ続くと見てよいでしょう。一方でCMPは、最終仕上げの工程として必ず残ります。つまり半導体市場の成長からの恩恵は研削とCMPに集まり、ラップという分野が受け取る分は相対的に少なくなっていくと考えられます。筆者個人の結論を言えば、ラップ工程は手間をかければ成立させることができます。しかしそれは非効率な手法であり、安易に手を出すべきではないと考えています。大手メーカーであればあるほど、将来を見据えて高性能研削工程を早めに導入し、熟練度を高めておくべきでしょう。プロセスの習熟には時間がかかります。ラップレスが当たり前になってから慌てるのではなく、当たり前になる前に仕込む——研磨材に携わる筆者自身も、この変化を前提に自分たちの立ち位置を考え続けていきたいと思います。
まとめ
研削・ラップ・CMPという半導体の平坦化プロセスにおいて、砥石技術の進化を背景に「ラップレス化」が着実に進んでいます。品質・コスト・環境という複数の観点からラップを不要にする力が働く一方で、ラップは多品種・難加工を受け止める役割へとシフトしながら残っていくと考えられます。この変化を前提に、研削技術の早期導入や、研磨材ビジネスの付加価値転換が今後ますます重要になっていくでしょう。
記事No,525
