マイポックスは2026年6月26日付で、2030年のフランスアルプス冬季五輪出場を目指すアルペンスキーの小野里佳恋(おのざとかれん)選手とスポンサー契約を締結しました。
今回、研磨ラボ編集部は、ヨーロッパへの練習遠征を控えた小野里選手のスキーメンテナンスの現場に密着。100分の1秒を争う競技を支える「磨き」の技術と、トップ選手ならではのこだわりを取材しました。
目次
小野里佳恋選手とのスポンサー契約について
小野里選手は、JOCジュニアオリンピックや世界ジュニア大会のU16日本代表に選抜された、次世代を担う女子アルペンスキーヤーです。確かな技術と高い向上心を持ち、2030年の冬季五輪出場、そして世界の頂点を目指して挑戦を続けています。マイポックスは、同選手の姿勢と可能性に共感し、その挑戦を支援するべく本契約の締結に至りました。
アルペンスキーは、時速100kmを超える超高速のなかで氷や雪の斜面を切り裂き、100分の1秒を争う過酷なスポーツです。選手のポテンシャルと鍛え抜かれた技術を雪上で100%引き出し、ロスなく滑走スピードへと変換させる役割を担うのが、スキー板の「滑走面の平滑さ」と「エッジの鋭さ」です。
マイポックスの研磨材は、国内スキーメーカーの製造工程からチューンナップ、日々のメンテナンスに至るまで、スキー板のクオリティを高める現場で使われています。「最も滑る、最も曲がる板」の追求と、当社の「磨く」技術の追求が強く共鳴したことこそが、今回のスポンサーシップの最大の原動力です。
小野里佳恋選手のプロフィール
PROFILE|小野里 佳恋(おのざと かれん)
Instagram @karen_onozato
4歳の時に遊びで始めたスキーをきっかけに、大自然の中をハイスピードで滑走するアルペンスキーの魅力に引き込まれました。コーチでもある父親の指導のもと、幼少期から頭角を現し、数々の大会で優勝するなど、同世代のトップランナーとして注目を集めています。
主な戦績
氷の斜面を攻めるアルペンスキーと毎日のメンテナンス
スキーといえば、さらさらのパウダースノーを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし小野里選手が滑るレースコースは、カチカチの氷の上を滑ることも多く、なかには雪面にあえて水をかけ、意図的に凍らせたコースもあります。初心者の感覚では、氷の上ではずるずると滑って止まれないイメージがありますが、トップ選手はアイススケート選手が氷上を滑走するように、スキー板のエッジを氷に食い込ませて滑って行きます。
そのため、しっかりとエッジを立てて臨まなければ、板が氷に食いつかず滑走することができません。ところがエッジは、3本も滑ると角が丸くなってしまいます。練習やレースでは、スキーの研磨をすべて自分たちで行わなければならず、メンテナンスは練習ごとに行うのが基本です。熱心な選手でも2日に1回といわれるなか、小野里選手は毎日欠かさず手入れを行っています。
さらに小野里選手は、3〜4セットの板を持ち込み、使い回しながら練習しています。そのすべてを手入れするため、メンテナンスにはかなりの時間がかかります。ここからは、取材で見せていただいたメンテナンスの工程を順に紹介します。
メンテナンスの流れ
購入時
下処理(端面・サイドウォールをサンドペーパーで研磨し、ツルツルに仕上げる)
練習ごとのメンテナンス
STEP 1
ワックス前の下地処理
STEP 2
ボーダーカッターでサイドウォールを削る
STEP 3
セラミックストーンでエッジを研ぐ
購入した板はまず下処理から ― 端面をツルツルに仕上げる
購入したばかりのスキー板は、エッジや端面がなだらかに整っておらず、そのままでは競技で力を発揮できません。そこで、使い始める前にまず自分たちの手で下処理を行います。コーチでもある小野里選手のお父様に、お話を伺いました。
店頭で販売されている出荷状態の板も、滑走できるよう十分に仕上げられています。しかし下処理とメンテナンスを重ねた板と並べると、見た目のツヤや触ったときの感触に違いが表れます。
出荷状態の板
サイドウォールに段差があり、触るとややザラつきや引っかかりがある
メンテナンスを重ねた板
段差が少なく、見た目もピカピカ。触るとよりツルツルに仕上がっている
最も大きな違いが出るのが、エッジの鉄の部分と、その横にある白い樹脂部分「サイドウォール」を含む端面です。一般のスキーヤーやショップではサイドウォールに手を加えることはまずありませんが、トップ選手になるとこの部分まで磨きます。
理由は、サイドウォールも雪に触れる部分だからです。100分の1秒を争う競技では、1〜2kmのコースを滑るうちに、わずかな抵抗の差がタイムの差となって表れます。かつては磨かないのが一般的でしたが、今ではサイドウォールを磨くのが主流になっています。また、サイドウォールとエッジの間にできる段差も抵抗の一つとなり、エッジを研ぐ際の邪魔にもなるため、この出っ張りも削り落とします。
端面研磨の手順
荒削り
マジック式サンドペーパー#180でスタートし、段差を削る
仕上げ
#320、#400の順に番手を上げ、ツルツルに仕上げる
潤滑
オイル状の潤滑剤を施して仕上げる
研磨には、手作りの当て板にサンドペーパーを巻いて使用しています。木では硬すぎ、柔らかすぎるとふにゃふにゃになってしまうため、ちょうどいい硬さのゴムを見つけて自作しています。
仕上がった端面は、指で触ってようやくわかるほどの滑らかさです。わずかな違いに思えますが、端面を平滑にすることで雪の抵抗を抑えることができます。
この端面・サイドウォールの研磨はお父様が遠征前に仕上げておき、毎回磨く必要はありません。一方、エッジの研磨は小野里選手が遠征先でも自分で行い、ほぼ毎日欠かさず研いでいます。
STEP1|ワックス前の下地処理(滑走面のクリーニング)
最初に行うのが、ワックスを塗る前の下地処理です(取材当日はワックスは塗らず、下地処理の後にエッジの作業へ進みました)。
雪には土などの汚れが意外と多く含まれており、特に春先など雪が汚れている時期は、滑走面にゴミが付着して真っ黒になってしまいます。この状態のままではワックスがうまく浸透せず、塗ってもすぐに剥がれてしまい、レースや練習で板の性能を十分に発揮できません。
そこで、次の手順で滑走面を整えていきます。
下地処理の手順
POINT
この工程のメインは「磨く」ことではなく「ゴミ取り」です。滑走面をすみずみまできれいにしておくことで、ワックスをできるだけ奥まで浸透させることができます。
STEP2|ボーダーカッターでサイドウォールを削る
ワックス作業を終えたら、いよいよエッジの作業に移ります。まずスキー板を固定具でしっかりと固定します。エッジはごく細い金属部分のため、作業中に少しでも板がずれると傷がつき、最悪の場合は板が使えなくなってしまうこともあります。
次に使うのが「ボーダーカッター」です。エッジの横にはサイドウォールと呼ばれる樹脂(プラスチック)部分があり、これが邪魔をしているとエッジをうまく研ぐことができません。ボーダーカッターの刃をエッジの角に当てて樹脂部分を削り、エッジが少し飛び出す状態にしてから研磨に入ります。
削ると粉が出て、黒かった部分に削れた跡が現れます。これがきちんと削れている証拠です。1回では十分に削れないため何度も繰り返し、爪で触って段差ができているかを確認しながら作業を進めます。
POINT|エッジは研ぐたびに"痩せていく"
エッジは研ぐたびに少しずつ減っていきます。エッジとサイドウォール(ボーダー)が同じ高さになってしまうとエッジを研げなくなるため、ボーダーカッターで樹脂部分を削り、エッジを出しておく作業が欠かせません。
STEP3|セラミックストーンでエッジを研ぐ ― 87.5度へのこだわり
手作業ではどうしても仕上がりにばらつきが出るため、小野里選手はエッジの研磨に機械を使っています。機械にはセラミックスの砥石(セラミックストーン)が取り付けられており、ダイヤルで角度を調整します。
小野里選手のエッジ角度
87.5°(大回転用の板)
取材時、ダイヤルは86.5度を示していましたが、回して87.5度に調整。これは大回転用の板に合わせた角度で、ターンの弧が小さい回転(スラローム)用の板では角度が異なります。
角度はエッジ研磨において最も大切な要素です。角度を間違えて研いでしまうと、板が思うように曲がらなくなってしまいます。そのため作業の最初に角度を確認することを徹底しています。
小野里選手は自分に最適な角度を見つけるために、角度を変えた板を何本も用意し、タイムを計測しながら「どの角度がより雪に噛むか」「どれが一番速いか」を比べてきました。こうして見つけた"自分の角度"で、毎回チューンナップを行っています。
作業時の注意点
・研磨中は鉄粉が出るため、マスクを着用して作業する
・研ぎすぎるとエッジが減ってしまうため、1回ごとにエッジの立ち具合を確認しながら進める
・研磨後は、歯ブラシなどを使って機械に付着した鉄粉のクリーニングも欠かさない
仕上げのコツは「手の感覚」
メンテナンスのいちばんのコツは、平滑でシャープなエッジをきれいに仕上げることです。小野里選手は手入れのたびに、手のさまざまな部分でエッジを触って感覚を覚え、実際に滑ったときの感触と照らし合わせながら仕上げていきます。
道具選びにも試行錯誤を重ねています。研磨に使うファイル(やすり)は微妙な硬さが手に伝わるものを調達し、微調整のための砥石など、さまざまな研磨材を使い分けてきました。滑走面も、ワックス、ブラシ、スクレーパーを使って目には見えない抵抗を毎日少しずつ減らし、より平滑に仕上げていきます。
POINT|滑走時間よりもメンテナンス
小野里選手にとって、メンテナンスは滑走する時間以上に重要なプロセスです。板と向き合い、手の感覚と滑りの感触をすり合わせる積み重ねが、氷の斜面での一本につながっています。
マイポックスがご提供・ご提案した研磨材
今回マイポックスは、板の端面を研磨するためのサンドペーパーをはじめ、以下の研磨材をご提供・ご提案させていただきました。
ご提供
マジックタックペーパー(Nikkenブランド)
細かい番手を複数そろえたサンドペーパー。板の端面研磨用としてご提供しました。
推奨品としてご提案
フィルムマジック
より平滑な研磨ができるフィルムタイプの研磨材。端面をさらに滑らかに仕上げたい場面に向いています。
代替品としてご提供
不織布研磨材
近年廃盤となった品種も出ていることから、ユニベックス、ユニウールの代替提案品をご提供しました。
小野里選手が追求する「最も滑る、最も曲がる板」づくりに、マイポックスの研磨材がお役に立てればうれしく思います。
まとめ|「磨き」が100分の1秒を生み出す
アルペンスキーは、道具を使うスポーツのなかでも、道具の仕上がりが結果に直結するシビアな競技です。選手の技術はもちろん、スキー板のメンテナンスの良し悪しだけでもタイムが変わってきます。お父様が語るように、研磨作業は競技のなかでもかなり大きなウェイトを占める要素なのです。
購入時の端面の下処理、滑走面の下地処理、ボーダーカッターによる樹脂の除去、87.5度にこだわったエッジ研磨。そして、手の感覚を頼りに仕上げる日々の積み重ねが、氷の斜面で100分の1秒を削り出す力になっています。
マイポックスはこれからも、「磨く」技術で世界の頂点を目指す小野里佳恋選手の挑戦を応援していきます。
