■はじめに

ハードディスクドライブ(HDD)の記録密度が向上し続ける昨今、磁気ヘッドの製造プロセスにはこれまで以上の精密さが求められています 。特に、ヘッドが搭載されるAlTiC(アルミナチタンカーバイド)スライダーの平面出しや寸法制御は、デバイスの性能を左右する極めて重要な工程です 。

保管サーバーのデータの国内ルーム
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しかし、従来の研磨フィルムでは、加工の進行に伴う砥粒の摩耗が避けられず、それに起因する研磨レートの低下、すなわち加工性能の不安定化が大きな課題となってきました 。こうした「研磨ライフ(耐久性)の短さ」と「加工性能の不安定化」という課題は、品質管理の観点からも現場への大きな負担を強いる要因となることが容易に推測されます。

ハードディスク画像・Geminiで作成
ハードディスク・Geminiで作成

これらのボトルネックを解消し、安定した高品質加工を長期間維持するために開発されたのが、「複合粒子」技術を用いた高耐久ダイヤモンド研磨フィルムです 。

目次

  1. ■複合粒子技術の基礎と原理
  2. ■AlTiCスライダー研磨における課題と解決策
  3. ■製造プロセスへの適用と展望
  4. ■ まとめ

■複合粒子技術の基礎と原理

本技術の核となるのは、複数のダイヤモンド微粉を樹脂で繋ぎ合わせた「複合粒子(凝集粒子)」です 。その構造は従来の研磨フィルムとは異なり、階層的な砥粒構成を採用していることが特徴です 。

構造の仕組み

例えば、数μm程度の非常に細かなダイヤモンド一次粒子を樹脂で固め、数十μm程度の粒径を持つ大きな複合粒子を形成しています。

「自生発刃」のメカニズム

この構造が、優れた「自生発刃(じせいはつじん)」のメカニズムを生み出し、安定した高品質な加工を実現します 。研磨中に複合粒子表面の粒子が摩耗・脱落すると、その内部から次々と新しいダイヤモンド微粉が露出する仕組みとなっており、研磨の初期から寿命終盤まで加工性能を減衰させることなく、常に「新鮮なダイヤモンド」のエッジで加工を行うことが可能となります 。

・微粉SEM画像

DS8000微粉 SEM画像x500

・挙動のモデル

複合粒子メカニズム
複合粒子メカニズム

■AlTiCスライダー研磨における課題と解決策

前述した通り、ヘッドが搭載されるAlTiCスライダーの加工プロセスは非常に重要であり、精密な加工精度が求められます 。しかし、難削材であるAlTiCは非常に硬く、従来のフィルムでは摩耗によってダイヤモンドがすぐに鈍ってしまい、研磨レートの低下を招くなど、生産性や品質管理が大きな課題となっていました 。

複合粒子技術は、この課題を以下の2点から解決します 。

研磨レート低下の抑制:粒子が崩れながら常に新鮮なエッジを供給し続けるため、高い加工性能を長時間維持します 。加工性能の安定化は、AlTiCスライダーのシビアな寸法制御を確かなものにするなど、品質管理上の大きな利点となります。

物理的な高耐久性:粒子自体がお団子状の厚み(数十μm程度)を持つため、従来の単層的な粒子配置に比べ、飛躍的な寿命の向上を実現できます 。

こうした加工性能や耐久性の安定化によって、フィルム交換に伴う作業工数や品質バラツキを抑制し、トータルコストの削減を可能にします。

・研磨使用前

研磨使用前 SEM画像x2000

・研磨使用後

研磨使用後 SEM画像x2000

■製造プロセスへの適用と展望

HDDの製造フローにおいて、ヘッドはウエハ上に一括形成された後、「Bar(バー)」状に切り出され、最終的に個別のスライダーへと加工されます。

この一連の流れの中で、特に重要となるのがバー状のAlTiCを研磨する「Polishing Bar(ポリッシングバー)」工程です。ここで精密に仕上げられたスライダーは、その後HGA(Head Gimbal Assembly)へと組み込まれます。

  • 多個取り加工への最適化: 実際の現場では、1サイクルあたり数十本のバーを同時に処理する高効率なラッピングマシンが運用されています。
  • 品質の均一化: 複合粒子によって加工性能が安定化されることで、バー間での品質ばらつきを抑え、高い歩留まりを確保できます。
  • スループットの最大化: 研磨レートの低下を防ぐことで、設計通りのサイクルタイムで次工程(HGA工程など)へ製品を送り出すことが可能になります。

シビアな寸法制御と高い生産性の両立が求められる量産ラインにおいて、安定した加工性能を維持できる本フィルムの適用は、極めて合理的な選択と言えます。

■ まとめ

「複合粒子技術」を採用した研磨フィルムは、単なる消耗品の改善に留まりません。HDD製造におけるAlTiCスライダー加工の歩留まり向上と、トータルコストの削減をダイレクトに実現する戦略的ソリューションです。

常に「新鮮なダイヤモンド」で削り続けるという独創的な自生発刃メカニズムは、高度化するAlTiCスライダーの極めてシビアな寸法制御を確かなものにします。この次世代の研磨テクノロジーが、お客様の製造ラインにおける生産効率の最大化を強力にバックアップいたします。

No,376